銀行は、もはや「消費者金融」になっている 新たに危うい顧客層も取り込んで…

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このような高い伸びはどこまで続くのか。

仮に現在の伸びが続いた場合、あと数年で、貸金業と消費者ローン合計の残高はピークの2003年を超えてしまう。所得や金融資産の動向から潜在顧客層がピーク時から増えているとは思えない。だとすると、そろそろ銀行の消費者ローン市場の成長率は鈍化するとみるのが自然だ。

それでも、銀行は当面この分野を積極化するだろう。消費者ローンは顧客ロイヤルティが高い。顧客は、資金に困るたびに、以前借りた会社に頼る傾向がある。今後新規顧客が先細るなら、なおさら早めに囲い込もうとするだろう。

銀行の貸し出し姿勢の危うい"柔軟化"

銀行の積極化策の1つは、銀行の貸金業者化だ。従来銀行は、自行の口座がある人に対して消費者ローンを提供してきた。ところが最近は、口座がない人に対する貸出を行うという、貸金業者型の商品が広がってきた。
業務のアウトソースも拡大しつつある。現在、銀行の消費者ローンのほとんどが貸金業者の保証付きになっている。これにより、銀行は、2~3カ月延滞した債権は貸金業者に移管し、督促業務を任せていた。ところが最近は、この保証に加え、移管前の初期延滞の管理まで、サービサー会社などに委託する動きが出てきた。これを使えば、銀行は延滞顧客対応にいっさい手を汚さなくて済む。

さらに、将来的には顧客のターゲットを柔軟化する可能性もあるだろう。消費者ローン審査の重要な項目に、顧客が既に何社から借り入れをしているかを示す「他社借り入れ件数 (LE件数)」という指標がある。かつての貸金業者は1~4件程度が一般的だったが、銀行ではほとんどが「LEゼロ件」、つまり、他からまったく借りていない顧客である。しかし今後は、年収など他の条件次第ではLE1件以上の顧客に食指を伸ばす銀行も出てくるかもしれない。

もっとも、銀行が貸し出しを積極化すれば、貸し倒れリスクも高まる。特に、過払いや貸し倒れから復活した人が再び返せなくなるリスクはやはり高い。

また、銀行がターゲットとする中高齢者層は、給与は高いがその分家族関係の出費も多いため、安全とは限らない。実際、借入金額が大きい中高齢者層のほうが、消費者ローン顧客として滞留している期間が長い傾向がある。何とか貸し倒れを避けるべく長期間支払いに苦労している姿が透けて見える。日本の金融資産の3分の2は50歳以上の中高齢者層が保有するが、資産格差は若年層よりはるかに大きい。

必要な人にお金を融通することは金融機関の責務である。だが、借り入れで一時しのぎをして、後から返済に苦しむ人も少なくない。ここから先の消費者ローン顧客の掘り起しは、どこまでが借り手のためになり、健全といえるのか。銀行にとっては未知の領域だ。難しい境界線に銀行は立たされている。

大槻 奈那 ピクテ・ジャパン シニア・フェロー

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おおつき なな / Nana Otsuki

東京大学文学部卒業。邦銀勤務の後、ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。格付け会社スタンダード&プアーズ、UBS証券、メリルリンチ日本証券にてアナリスト業務に従事。2016年1月よりマネックス証券 執行役員。2022年9月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授を兼務。共著で、『S&P 日本の金融業界』シリーズ(東洋経済新報社)、『リテール金融のイノベーション』(金融財政事情研究会)、『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)など。ロンドン証券取引所 アドバイザリーグループ・メンバー。政府委員を歴任。

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