病院の「長い待ち時間」はなぜ解消しないのか 経営学と法律の観点から解決策を考える

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1つ目の理由は、「サービスの提供を断ることが容易ではない」ことです。一般のサービス業であれば、供給よりも需要が多い場合にはお客様を「お断り」することができます。たとえば、ラーメン屋であれば、「スープがなくなり次第終了」といったことができます。Appleストアでも、iPhoneは在庫がなくなり次第、予約受け付けに切り替えてその日の販売を終了とすることができます。

同じように考えれば、病院も一定数の患者が来院したら、その後は来院する患者数に制限をかけることで、来院する患者の満足度を上げられるのではないかと考える人もいると思います。しかし、医師は患者の診察を容易には断ることはできません。これを医師の「応召義務」と言います。

断るハードルがとても高い

医師法には、「正当な事由」がないと医者は患者の診察治療の要請を断ってはいけないという規定があります(医師法19条1項)。その理由としては、医師の職務の公共性と、医業独占の負担の2種類が挙げられます。要するに、医師の仕事が生命や健康に直接関係する重要なものであり、広く平等に医療の提供を保障しなければならないこと、そして、医師が医業を独占していることから、医師に断られれば患者は原則としてほかに行くところがないことから、このような応召義務が課せられることになっているのです。

もちろん、例外は認められていて、「正当な事由」があれば拒むことができるとされていますが、患者側の緊急性が高い場合には、専門外、時間外などであっても拒むことができない場合もあり得るなど、サービスの提供を断るうえで、ほかのサービス業にないハードルが課せられています。

2つ目の理由は「価格を自由に調整できない」ということです。この点は、保険診療との関係が重要になります。たとえば、800円で売っているラーメン屋で、毎日長蛇の列ができて11時の開店と同時に売り切れるとしましょう。ここで、900円、1000円、1200円と値段を上げていくと、ある段階で並び時間がちょうどよく、また値段もそう高くない「絶妙なライン」に達します。そのラインを超えて2000円、3000円、4000円、5000円と上げていくと(「高級ラーメン」「ラーメン懐石」などの別のビジネスモデルを取る場合を除き)、需要が減り、売り上げも上がらなくなります。

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