病院の「長い待ち時間」はなぜ解消しないのか 経営学と法律の観点から解決策を考える
このように、ラーメン屋などの通常のサービス業は、混雑度合いの調整のために「価格」を使うことができます。しかし、医療において圧倒的多数を占める保険診療では、いわば価格である「点数」が決まっていて、病院の側で自由に価格を操作することはできないのです(健康保険法76条2項参照)。保険適用外のいわゆる「自由診療」は原則として自由に価格を設定することができますが、全体からみるとその数は多くありません。そうすると、上記の「絶妙なライン」というものが、仮に医療において存在するとしても、保険診療である以上、一律の価格(点数)でサービスを提供する必要があるため、価格による混雑度合いの調整も困難になります。
待ち時間解消のための処方箋
このように、病院においては、通常のサービス業が待ち時間を減少をさせるために用いることができる2つの手法が、法律上の理由で用いることができません。では、待ち時間の減少のために、どのような工夫をすればよいのでしょうか。
理論的には、病院が、医師や看護師を大量に確保し、巨大な供給能力を持つことで、供給量を需要量と一致させるということも考えられますが、それは事実上不可能です。たとえば、健康な人が「病院に行くたびにいつも待たされる」という印象を持つ理由としては、健康な人も病院に行かねばならない時期があるといったことが挙げられます。
たとえば、現在(2017年2月)、インフルエンザが流行していますが、そのような流行性疾病がある場合は、健康で普段は病院に来ない患者も多数来院します。逆にいうと、そのような時期以外は、そこまで多くの患者の来院はない病院も多いといえます。すると、ピークの人数を基準に医師や看護師を確保すれば、確かに待ち時間は短くなりますが、それ以外のオフピークの時期には余計な費用が発生するということになるでしょう。
医師や看護師を柔軟に増減することは容易ではありません。病院の経営を考えると、安定的な需要プラスアルファに応える程度の医師や看護師を確保するという方針が合理的であって、瞬間最大風速的なピークに備える医師や看護師の確保は、必ずしも合理的とはいえません。