「低所得者こそ賃金が上がらない」という矛盾

完全雇用なのになぜ賃金上昇率が鈍いのか

ところが労働組合の要求はいかにも及び腰だ。今春闘に関して連合が掲げるのは、昨年と同水準の「2%程度」のベースアップ。なぜ高い賃上げを要求しないのかについて、野村證券の美和卓チーフエコノミストは「日本固有の終身雇用制と年功序列賃金という労働慣行が(賃上げ要求の)ボトルネックになっている可能性がある」という。定年まで雇用を保障してもらう代わりに、賃上げをあきらめるというバーターが成立しているのではないかというのだ。

あらためて東芝のケースを引くまでもないだろう。優良とされる大企業ですら明日をも知れず、ちょっとした出来事で企業経営が傾いてしまう不確実性の時代である。労働組合幹部が賃上げを強く要求しないことは理解できなくもない。

派遣労働では平均時給がむしろ下落している

足元の賃金動向をみると、賃金は伸び悩んでいる。

厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、現金給与総額は2016年には5月を除きほぼ前年同月比プラス圏を維持している。ただ、8月、9月は横ばい、10月は0.1%増、11月は0.5%増と伸びは鈍い。

気になる動きもある。派遣大手のエンジャパンの調べでは、2016年12月の派遣平均時給は1535円、3カ月連続で前年同月比マイナスに沈んだ。同社では「昨年10月の社会保険に関する法改正の影響で、介護関連職を中心に、夫が扶養控除を受けられる範囲内で働くように就業調整をする主婦層が多かったせい」と分析している。

社会保険料の負担をしないように収入を調整する場合は、「労働時間を減らす」「時給を下げる」の2通りがある。同社は「介護職場の人手不足の現状もわかっているので、主婦らが時給引き下げを受け入れたのではないか」と推測する。

2016年10月以降、従業員501人以上の企業で、週20時間以上働く短時間労働者も健康保険や厚生年金保険に入らなければいけなくなった。年金保険料を納めれば、将来受け取る年金額が増えるメリットもあるのだが、目先の保険料負担を嫌い、加入対象とならないよう労働時間を抑えるなど、就労調整する動きが懸念されていた。介護派遣の事例は、こうした懸念が現実化したことを示している。

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