「炭素繊維」、大本命の車向けで勝つのは誰だ 帝人と三菱レイヨン、王者・東レを追撃なるか

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アクリル繊維を炭化した炭素繊維は、日本企業の地道な技術改良で開花した先端素材だ。先頭に立って市場を開拓してきた東レが世界シェアの約4割を握り、2番手の帝人、三菱レイヨンを足した3社で世界生産の6割超を占める。中国などのアジア企業も参入済みだが、日本勢とは品質で大きな差がある。

炭素繊維は通常、樹脂を混ぜた複合材料(炭素繊維強化プラスチック=CFRP)にして使用される。軽くて強く、耐腐食性にも優れ、最新鋭旅客機の胴体・翼をはじめ、風力発電風車の羽根、ゴルフクラブ、ガス圧力容器などに使われている。

そして今、最も熱い分野が自動車だ。世界的な燃費・環境規制などを背景に、各国の自動車メーカーは車体の軽量化を急いでいる。「そのための手段として、自動車構造部材でCFRPの採用が増えていくのは間違いない」(帝人炭素繊維・複合材料事業本部長の中石昭夫氏)。

新型プリウスPHVは軽量化のため、バックドアの骨格材に炭素繊維複合材を採用した(撮影:尾形文繁)

これまで自動車業界ではコストの問題からCFRPの採用は一部の高級車に限られていた。だがトヨタ自動車が今年2月に発売する新型「プリウスPHV」でバックドアの骨格材にCFRPを使うなど、普及車での採用がいよいよ現実のものになってきた。

自動車は生産台数がケタ違いに多いだけに、普及車への採用が部分的にでも進めば、CFRPの最大用途になるのは間違いない。勝負を左右するのは、自動車メーカーにとっての成形・加工コストだ。

従来のCFRPは長繊維・織物に樹脂を含浸させたものが一般的で、顧客企業がそれを積層して形を整え、炉で焼き固め製品に加工してきた。しかし、生産ロットの大きい自動車では、こうした成形手法では手間と時間がかかりすぎる。

数分でプレス成形が可能

そこで東レや帝人、三菱レイヨンは使用する樹脂などを見直し、自動車部材用にプレス成形可能なCFRPを競って開発。先述したトヨタの新型プリウスPHVは、その中から三菱レイヨンが提案した技術を採用した。短く切った炭素繊維を特殊な樹脂の中に分散させたCFRPで、プレス成形に要する時間は数分で済む。

こうした技術改良に加え、独自の川下戦略を取るのが帝人だ。買収したCSPを活用し、成形工程も自社に取り込む。「材料のCFRPを供給するだけでなく、それを効率よく部品に成形する役割も担うことで、自動車での採用を加速度的に広げたい」と帝人の中石事業本部長は語る。

炭素繊維業界は高単価の航空機用途を中心に、東レが圧倒的な存在感を誇ってきた。帝人と三菱レイヨンは事業の規模、収益とも大きく引き離されているだけに、「自動車用途では何としても勝ちに行く」(三菱レイヨンの福居取締役)と2社の鼻息は荒い。自動車を舞台とした国内3社の戦いは、本格採用を前に早くも火花が散っている。

渡辺 清治 東洋経済 記者
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