グローバル化の恩恵を農村に分配しなければ!−−インフォシス テクノロジーズ創業者 ナラヤナ・ムルティ

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-- 一方で経済のグローバル化は、多くの国で所得格差を拡大していると指摘され、中東や南米などでは激しい反グローバル化運動も起こっています。

ご指摘の点はわかります。確かにインドだけでなく中国やブラジル、メキシコといった国において、都市ではなく農村部に住む人々はグローバリゼーションの恩恵をほとんど受けていません。開発が進んでいない地方においてグローバリゼーションは、人生における機会格差をもたらすという形で浸透してしまいました。

それにもかかわらず、農村部でもごく基本的な物の価格上昇が生じています。たとえば住宅。そして食品もそうですね。地方の貧しい状況とは無関係に、都市部の経済状況が全体の水準を引き上げてしまうからです。この状況に対し、農村部に住む貧しい人々は強い怒りを感じているのです。

--特にインドは、都市と農村部の格差が大きな社会問題です。

ええ、65%が農村部に住んでいますから。ですからインフォシスのような企業は自ら、“グローバリゼーションの恩恵”を農村に分配しなくてはなりません。企業としての使命なのです。

--どのように分配するのですか。

教育を受ける場や雇用を創出するといった活動です。たとえば、農村部の子供向けに1万カ所の図書館を設立しました。売春婦が自立できるための更生施設や、農民のための病院もあります。

--そういった活動に、インフォシスは年間どれほどの金額を投じているのですか。

ざっと500万ドル(約5・4億円)でしょうか。金額に換算できるものばかりではありません。インフォシスの社員の多くが、週末に地方で何らかの活動にかかわっています。たとえば小学校を訪れ、昼食を提供するだとか。これは業務や命令といったたぐいではありません。あくまで社員のボランティアです。

--ノーブレスオブリージュの精神とでも言うべきですか。

そう言ってよいでしょう。あなたが成功した企業に勤めることができたのならば、さらによりよい社会を作ることに進んで貢献しなければならない。そういう価値観に基づくものです。この価値観はインドのような貧しい国においては、極めて重要です。

--外資企業はこの状況にどんな役割を果たすべきですか。

競争をもたらしてくれることを期待しています。(インドの民間企業は)適正な競争があれば磨かれます。外資のグローバル企業がもたらす競争は、新興企業には非常に重要なのです。

実際インフォシスは、規制緩和で外資が参入した92年以降に成長しました。雇用においても、外資企業とワーカーの獲得競争をしなければならなかったから、ストックオプションや充実した教育制度といった取り組みに着手できました。私は市場競争の力を信じています。

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