「教育困難校」妊娠事件に凝縮された日本の闇 親からの愛情不足が、貧困問題の根本原因だ
筆者には忘れられない女子高生がいる。彼女はその「教育困難校」では抜群に能力が高かった。父子家庭に育ち、小学生の頃から弟・妹の面倒を見ていた。家では落ち着いて勉強ができず、学習塾にも通えなかったので、だんだん成績が悪くなり「教育困難校」に入学したのである。小柄で眼鏡をかけ、ややふっくらした体形。化粧っ気はまったくなく、アニメが好きで、お気に入りの作品の主人公をまねて自身を「僕」と称し、クラスの男子生徒とも気取らずに話し友達になれる、およそ「女子力」の低そうな生徒だった。
事件は2年の2学期に起こった。彼女は1年生から生徒会役員を務めていたが、1つ上の先輩と恋愛関係になり、妊娠が発覚したのである。ほかの役員生徒が文化祭準備にほとんど協力せず、責任感のある2人が共同作業をするうちに恋愛に発展したのだ。相手の生徒も、おとなしい性格の優等生で、男女ともにそのような事件の当事者になるとは教員はまったく予想していなかった。妊娠が発覚したときはすでに中絶できる時期ではなく、学校を休んで産むことになった。女子生徒は相手との結婚を望んだが、男子生徒の母親が猛烈に反対し、結局、生まれた子どもは児童養護施設に預けられ、2人の仲も引き裂かれた。
強烈な愛情渇望症を抱えていた女子生徒
不適切な男女交際を行ったということで男女別々に生徒指導の対象となり、彼女の指導の際には筆者も同席した。生徒指導担当教員の話をうつむいて聞いていた彼女だが、「今後、高校生のうちは2度とこのような付き合いはしないように、いいね?」と言われたとき、一瞬顔を上げ、鋭い目つきで何か言いたそうになった。しかし、次の瞬間、またうつむき、小声で「はい」と答えた。
日頃見せている明るい表情の裏に、彼女は強烈な愛情渇望症を抱えていたのだろう。彼女はこの「恋愛」で物心ついてから初めて自分に向けられる愛情を感じ、自分が大切な存在と信じることができ、この「恋愛」を貫く気持ちでいたに違いない。筆者にはあの一瞬の鋭い視線は、彼女の幸福を壊した周囲の大人を憎む、彼女の気持ちの発露だと思えた。そして、筆者自身が、まるで「教育困難校」版「ロミオとジュリエット」の悪役の1人のようにも感じた。相手の男子生徒が卒業した後、彼女は学校に復帰したが、それからの1年は、誰ともほとんど話さず、教員とは目を合わせようとすらしない、寡黙な生徒に変わってしまった。
子どもの頃に親からの愛を十分に受けられず、その後の人生で人間関係が苦手になることを、心理学では「愛着障害」と呼ぶ。親の愛情を信じられず愛情渇望状態にあり、それを埋めたいがために恋愛至上主義者となった「教育困難校」の生徒たちは、まさに「愛着障害」の実例と言える。早い時期に「家庭」を作ろうとするのも「愛着障害」のなせる業なのだろう。こうして結ばれた若い夫婦は、子どもの数が愛情のバロメーターであるかのように、経済力を顧みず次々と子どもを作る。
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