「教育困難校」妊娠事件に凝縮された日本の闇 親からの愛情不足が、貧困問題の根本原因だ

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「愛着障害」のある彼らは、心の底からわが子を愛したい、伴侶を愛したいと強く思っている。しかしながら、愛されたことのない者には愛し方がわからない。大人、子どもを問わず、人と人が一緒に生活していくうちには、思いがけない感情の行き違いやトラブルが起こるものだ。そのような際に、たとえ相互に一時的な感情の爆発が起こっても、相手との人間関係の基盤として愛情と信頼を持ち続けることができれば問題は解決できるが、そうしたことは特に苦手のようである。

男女ともに若いうちに結婚すれば、経済基盤が弱い中での新生活のスタートとなる。そして、今の日本社会では子育てに多額のおカネがかかるため、子どもが増えると家計は一気に厳しくなる。懸命に働き、加えて児童手当や子育て支援を受けても生活は苦しくなる一方で、あまりの忙しさに精神的余裕を失う。十分な愛情はあっても、子どもにそれを形で示すことが難しくなっていく。極端な場合には、子どもへの虐待やネグレクトを起こしてしまう。その結果、再び、子どもの頃の自分同様に、親の愛情を知らない愛情渇望症の子どもを作り出していくことになってしまうのだ。

信頼関係の構築を体得していない

また、思うようにならない家庭生活は、夫婦の人間関係にも亀裂を生む。先述したように、相手に対して愛情と信頼を持ち続けることが苦手な「愛着障害」を持つ2人であれば、ほとんどの場合、離婚に至るだろう。離婚した夫婦に対して「最近の人は我慢が足りない」と訳知り顔に言う年配者がいるが、我慢ではなく、夫婦とも愛情や信頼関係の構築を体得していないから、離婚するのではないだろうか。

温かい「家庭」に強くあこがれながら、自身の作った「家庭」を短期間で失い、愛情の渇望感を埋めるために、また次の「家庭」を築こうとする。このようにして、「家庭」を次々に変え、一生愛情を求めてさまよう人もいる。いずれにせよ、1人親家庭になれば、相対的貧困状態は一気に加速し、新たに社会保障の必要性がある人が出現することになる。

晩婚化や労働環境の問題で少子化が改善されない日本社会にとって、若くして結婚し子どもを産む傾向にある「教育困難校」出身者たちはありがたい存在と思えるかもしれない。しかし、そこで生まれた子どもたちが、親のような「愛着障害」を起こすことなく成長できるようにしなければ、その子にとっても日本社会にとっても将来は楽観視できなくなる。だが、何の手も打たれないまま、「教育困難校」には恋愛至上主義となってしまった若者たちが、適切なアドバイスを受けることもなく、放置されてしまっているのが現実だ。
 

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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