右派勢力の台頭はこれらの国に限らない。北欧諸国やスイス、オーストリアなど、伝統的にリベラルな傾向が強い諸国でも同様である。欧州全体に右傾化の現象が起こっているのだ。
欧州諸国は元来、歴史的、文化的に多様である。が、2度の世界大戦で膨大な数の犠牲者を出した経験から、戦後、「欧州は1つ」という理念の下に経済共同体を設立、さらに欧州連合(EU)の形成へと進んできた。EUの加盟国数は着実に増加し、現在28カ国になっているが、さらに数カ国が加盟の候補になっている。
また、金融・通貨や環境、人権・人道などはもちろん、政治や安全保障などの分野でも、EUとしての統一政策を進めてきた。つまり、水平的(加盟国の増大)にも、垂直的(統合の深化)にも、統合を進めてきたのであり、その結果、EUの国際社会における発言権は顕著に高まった。
独仏中心のEUに反発していた英国
中でも中東は、英仏の植民地であったという歴史的な経緯もあり、深くかかわってきた。シリアではアサド政権による住民の抑圧、化学兵器の使用に対して、EUは強く批判。国際連合安全保障理事会での解決を求め、かつ、国際刑事裁判所に提訴する傍ら、反政府勢力を支援してきた。
しかし、欧州統合の道は、平坦でなかった。経済の低成長、高水準の財政赤字、高い失業率が常態化している状態では、欧州諸国の本来的な多様性は統合への障害となるのだろう。ユーロ圏では統一金融・通貨政策への疑問が生じている。
財政危機のギリシャには複雑な要因が絡んでいる。原因が何であれ、EUが求める厳しい財政規律に従うことに国民は強く反発し、ギリシャがユーロから離脱する危機が発生した。EUは懸命にギリシャの離脱を防ぐ措置を講じ、表面的には目下小康状態にあるが、基本的な問題は解決していない。ギリシャに限らず、イタリアやスペインにおいても、ユーロ離脱の圧力は高まっているほどだ。
そこに大量の難民が欧州に押し寄せてしまった。欧州統合にとっては、さらなる逆風である。難民の主たる発生源は、EUが人道的観点からかかわってきたシリアであるが、長引く混乱のために欧州への難民の流入は急増。その結果、難民・移民を排除しようとする動きが強まり、各国政府に受け入れを求めるEUに対しても反発が強くなっていった。右派勢力には「EUは瓦解する」と言う者も現れている。
2016年6月の国民投票で決まった英国のEU離脱は、欧州統合にとってさらなる大打撃だ。英国は以前から、独・仏が中心になりがちなEU、つまり欧州大陸的なEUと反りが合わないところがあった。英国が独自路線を歩むことは、EUにとって驚きではなく、EU離脱決定にも各国は平静を装っている。しかし、これまでともに統合の道を歩んできた主要メンバーが離脱することの影響は、計り知れない。
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