「恋愛至上主義」になる教育困難校の生徒たち 妊娠して高校を中退した時が、幸せの絶頂に

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相手にもっと愛されたい、あるいは拒むと嫌われるかもしれないと性交渉を持つ。これだけ性に関する情報が流れ、また、いくつかの教科で教えていても、妊娠を回避する策を取れればよいほうで、後先考えず欲望のままに行動することが多く、妊娠する女子高生は少なくない。「教育困難校」に勤務した経験のある教員で、女子生徒の妊娠事件に出合わなかった人はいないだろう。秘密裏に処理される数は、想像もつかない。

ある女子生徒の休みが増え、保健室の利用回数や、体育授業の見学が多くなると、ベテラン教員はおかしいと注意するようになる。顔や身体全体は細くなることもあるが胴回りがふっくらしてくると、本人に確認する。すると本人は拍子抜けするほどあっけなく認める。高校生なのに妊娠してしまったという罪悪感はさほどないからだ。その後、家族を呼んで善後策を講じることになるが、このときまで親は気づいていなかったという例がほとんどである。

実は中退を望んでいる高校

学校側としては一応、女子生徒に高校を続けてほしいとのスタンスで臨むが、当の本人は「カレシが結婚しようって言うから」と中退して産むことを選び、親も「子どものやりたいようにさせたい」と言って止めようとしない。学校側も、この道を選ばれると内心ほっとする。産んで高校生活を続けたいとなると、生まれた子どもをどうするか、ほとんどの場合、里親を探すか児童養護施設に預けることになるのだが、その方法を公的な情報に疎い親子と一緒に模索し、説明しなければならないからだ。

数ヵ月後のある日、その元生徒が赤ん坊を抱いて高校にやってくる。学校中を移動しながら、次々と顔見知りの教員に子どもの顔を見せて回る彼女の顔は幸せに輝いている。傍らには、戸惑い顔の年若い有職青年が手持ちぶさたに立っている。結婚式は挙げていなくても、書面上正式に結婚して新しい家族ができた彼女は、自分の人生の最高の目標を果たし、まさに絶頂の時なのだ。

この時代に、夫婦ともに高校中退であることや夫が不安定な職業に就いていることなどから生じる将来への不安は、彼女の頭にはよぎりもしないようだ。彼らの今後の生活の不安定さが見えてしまう教員は、今の彼女の幸福感・高揚感が少しでも長く続くように祈るしかない。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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