「バーゼル3」の完全導入が難航しているワケ

トランプ次期大統領の就任にリスク

問題はむしろ、米国と欧州との意見の食い違いにあった。米国は銀行の内部管理の厳格化や、銀行がリスクに応じて資産を減らすことに制限を課すよう求めてきた。

一方で欧州当局は、銀行の企業への融資リスクは本質的に低いと主張してきた。EU(欧州連合)加盟各国の銀行の融資先には、米国の資本市場を活用できる高格付けの大企業が多い、というのがその理由だ。また住宅ローンの証券化が進んでいる米国ほどには、銀行にとって不動産融資のリスクは高くないとも主張してきた。

このため、2016年11月にチリのサンティアゴで開催されたバーゼル銀行監督委員会の会合は、バーゼル3の最終的な取りまとめには至らず、2017年に再度開く会合に結論を先送りした。これでグローバルスタンダードの未来は、従来よりも不透明になった。

バーゼル3の取りまとめに向けてはほかにも課題がある。ひとつは各国の独自ルールとの調整である。

2008年の危機以来、多くの国々は表向きにはグローバルルールの厳格化を支持しながら、一方では自国独自の金融システムを保護する策を講じてきた。それは金融機関が破綻した場合、後始末はその金融機関が拠点を置く国々の当局に委ねられるからだ。銀行が世界中に支店だけを置けばよいという時代はとうの昔に過ぎ去ったのだ。

課題は山積しているが

ドナルド・トランプ氏が米国の次期大統領となることも障害になりそうだ。トランプ氏は国際協調に懐疑的で、「米国を再び偉大にする」と標榜してきた。彼が率いる次期米政権が、グローバルな銀行規制強化に前向きになるとは考えにくい。

欧州にも、EUから離脱する英国とユーロ圏との関係をあらためてどう規定するかという問題がある。ECB(欧州中央銀行)はこうした英国の問題に加え、イタリアの銀行危機にも対処する必要がある。

このような事情で、バーゼル3の取りまとめには難題が山積している。しかしグローバルスタンダード策定の取り組みが後退すれば、長期的に皆が苦しむのは自明の理だ。

新規制の取りまとめを主導するBIS(国際決済銀行)、FSB、そしてバーゼル委のトップは2017年、いずれも入れ替わる。新たなBIS総支配人となるカルステンス氏(現メキシコ中央銀行総裁)ら3人には、あらゆる外交手腕が求められる。

週刊東洋経済1月14日号

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