「SK-Ⅱ」のCMに中国女性が感動したワケ 日本企業の中国向けビジネスには何が必要か
「剰女(シェンニュイ)」は、日本人の中国通の間でもよく知られている言葉であるが、これは「売れ残り女」という意味だ。SK-Ⅱは、2016年にCMで「剰女」たちを取り上げ、中国の特にSNSで大きな話題になった。メインキャラクターの3人は、いずれも25歳以上の女性で仕事では優秀だが、まだ結婚していない設定だ。これは、「女の成功=夫婦円満」と思う親からみると、自分の教育が失敗したも同然の事態である。「結婚してくれないと、父さんは死ねないよ」「可愛くない子だから、残ったのかもしれないね……」などと言われ、親孝行を何よりも大事にしている中国人女性が、「結婚しないことは親不孝」という呪いに束縛され、自身も苦しむシーンを描写したことが多くの女性の共感を呼び、見事なまでにハートに刺さったのだ。
日本では、「夫はサラリーマン、妻は専業主婦」という家族は少なくなり、女性のライフコース(就学、就業、結婚、出産などを含めた人生の道筋)が多様化している。初婚・初産年齢は年々上昇し、30代後半や40代の結婚・出産も増えていれば、生涯未婚を選ぶ女性も増えている。それぞれの成功例も多いために、自分が歩んで行きたいライフコースを選び、自分の理想に近づけていくことができる。日本では、成人後は一人暮らしをするケースが多く、出産後も夫婦だけで育てるケースが多い。親も時間と資産のすべてを子供に投じることは多くはないようで、中国に比べて親子双方の独立性が高いと言えそうだ。
一方、中国では、1950年代から「女性は半分の天を支える」と言われ、共働きが一般化してきた。なぜかというと所得に加えて、社会保障や福祉制度も十分でないために夫1人だけでは家族を養えず、同時に女性が独りで生きていくのも大変だからだ。そのため、「専業主婦は貴婦人にしかできない」と言われていた(日本は専業主婦が多かったことが、中国人が「日本人はお金持ちが多い」と思っていた理由のひとつかもしれない)。
中国女性の人生の選択肢は、まだ限定的
中国では、一見して雇用環境は男女平等だが、その一方で選びうる女性のライフコースとなると限定的だ。親世代は平凡な人生が何よりと考えている。だから、官公庁や学校、あるいは国有企業といった給料はそこそこだが解雇の心配がなくて福利厚生がよく、残業がないところに就職してほしいと願う。そして、20代に結婚・出産し、早く帰宅して家事をこなし、そのまま平穏に歳を取っていく人生が、理想的な女性の生き方だと思っている。
なぜかというと、親世代では、このような人生を送った女性がいちばん幸せそうに見えたからだ。独身女性というのは、一緒に暮らしてくれるパートナーがいないし、給料が安く、悲惨な人生しか送れない最悪なケースだと考えられてきた。だから、自分の子供には絶対そのような人生を送ってほしくないし、そのような娘の親だという立場にもなりたくないのである。
そして、中国の親は、自分の子供をある意味では自分自身と同一視し、人生のすべてを懸けている。留学させてマンションを買ってあげて、就職先も探し、孫の面倒も見てあげるほどに子供の人生を背負っている。そこまでするのだから、子供には自分の思いどおりに行動してほしいと願う。
しかし、親世代の「独身=失敗」というような考えは、中国でも今の時代にはもう通用しなくなっている。若い世代の女性が、こうなりたいと思う姿や人生は、以前に比べてずっと多様化しているからだ。
優れた教育を受けてきて、仕事の能力も十分あるのでもっと職場で輝きたい人。仕事と結婚、そして子育ても両立したい人。「もう、25歳だから結婚しなきゃ」という価値観から離れ、高い給料で自由な生活を送りたい人。「車もマンションも持っている男性が最高の結婚相手」という考えをばかばかしいと思う人。専業主婦になりたい人――といった具合だ。
教育や経済の環境が以前に比べ大きく前進し、選べるライフコースが増えたため、自分の人生は自分で決めたいという「個」の意識がよりはっきりと育ってきた。ただ、それでも親孝行という伝統意識は消えずに根本にある。だから、自分らしい生活をしたいと思いつつ、親の思いどおりに行動しない自分は親不孝という罪悪感も同時に持つ。
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