青学・原監督が明かす「強いチームの作り方」 常識を疑い、土壌を整え、成長を促す
私が、そのことに気づいたのは、サッカー選手の先輩に対する呼び方でした。
サッカー選手は、試合中、選手が先輩・後輩の垣根なく「君」付けで呼んだり、ニックネームで呼び捨てにしたりしています。先輩は後輩にとって常に敬意を払う存在だと教えられてきた私には、とても違和感があります。
それでは、サッカー選手は先輩に敬意を払っていないのかといったらそんなことはない。常に瞬間的な判断力を求められるサッカーの試合で、先輩に敬意を払っている時間はないということです。理由を聞けば納得です。
陸上界に戻ってきたときは、逆の意味で、驚きました。私の現役時代と変わらない常識が通用し、指導法もまったく変わっていなかったからです。時代は確実に変化し、人間の思考や行動も変化がしているのに、陸上界は何も変わっていない。私から言わせると、それは「退化」でした。
同じ場所に長くいると、時代の変化に気づかないだけでなく、気づこうとさえしなくなります。そういう組織だと、仮に新たな指導法があっても、「ああいうものはダメだ」と試すことも、調べることもせずに否定し、拒絶してしまいます。
これでは、チームを強くできません。
業界という小さな世界に固執して、大きな世界の流れを直視しないと、時代遅れどころか手遅れ。新しい発見やアイデアは外と交わることで生まれます。そのほうが業界内の常識を時代に合わせてダイナミックに転換できると、私は考えます。
誰がやっても強い組織をつくる
強いチームをつくるには、時間がかかることも忘れてはならないことです。
人は結果をすぐに求めたがりますが、強いチームをつくるための土壌、つまり環境を整えるには相応の時間が必要です。そして、その土壌ができれば、誰が監督になっても強いチームであり続けることができます。
スポーツ界では監督が変わることで弱体化する光景をよく見ますが、一般の企業はどうですか? 経営者が変わってもそれまでと同じ、あるいはそれ以上に成長していく企業はたくさんあります。スポーツ界でも同じことができるはずです。
常勝軍団になるには、土台となる環境づくりがとても大切です。土壌が腐っていたら、いくらいい種でも芽は出ません。私は選手が育つ土壌をつくるまで10年以上という時間を費やしました。
仮に就任当初に初めて箱根駅伝に総合優勝した2016年のメンバーがそろっていても優勝は難しかったと思います。選手の素質だけである程度の結果は残せたかもしれませんが、強豪大学と競り合って上位争いをすることはできなかったでしょう。スピードが大切な時代とも言われますが、土を耕す時間を与えずに結果だけを求める現状には疑問を感じます。
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