本当に金利が上昇すれば、日本財政はもたない 米国の金融緩和終了後の世界は、どうなるのか

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新しい均衡に日本財政は耐えられない

仮に2%インフレ目標が達成されて金利が上昇すると、深刻な問題が起きる。それは国債利払い増大だ。

13年度予算の国債利払い費は、9兆8546億円(予算総額の10.9%)だ。一方、12年度末の公債残高は709兆円だ。したがって、平均利回りは、1.4%程度だ。金利が現在の2倍になるのは十分起こりうるし、3倍になるのもありえなくはない。金利が3倍になれば、利払い費も最終的には3倍になる(すぐにはそうならないが、ここで考えているのは、長期安定的な状態である)。その場合、国債利払い費は、現在より20兆円程度増加する。

これを賄うには、国債を発行するしかない。しかし、金利が上昇した状態では、簡単には資金を調達できない。マクロ的にいえば、先に述べたように、資金調達で外債と競合することになるので、難しいのだ。

日銀引き受けに依存すれば、国債増発とインフレの悪循環が起きる。日本経済がそうした状態に陥るのは、他国にとっても望ましいことではない。先般のG8で注文を付けられたのも、このことだ。

もちろん、財政再建ができれば、こうした問題はなくなる。先に、「利払いのために国債発行が必要になる」と述べたが、他の歳出を削るか、税収を増やすことができれば、国債を増発しなくてすむ。しかし、一般会計の社会保障関係費が約26・3兆円であることを考えれば、歳出を20兆円カットするのは到底不可能だ。また、消費税の税収が約10兆円であることを考えれば、20兆円の増税も到底できない。

そして、現実の政治は、財政状況を深刻視していない。先般閣議決定された「骨太の方針」は、プライマリーバランス半減という目標を一応は掲げてはいるものの、その実現への過程は、一向に明らかでない。社会保障の見直しは緊急の課題だが、検討さえされていない。

それだけではない。消費税の増税を先送りすべきだとの声がある。一方で、公共事業を増やす国土強靭化計画や、法人税の減税が叫ばれる。財政赤字の拡大はありえても、縮小する可能性はほとんどない。

結局のところ、日本の財政は、デフレと低金利という条件下において初めて、破綻せずに継続できたのだ。その状況が変わると、維持できなくなる。つまり、日本はデフレ脱却ができない状態にあるのだ。

日本経済は深刻な傷を負っているため、ゆっくりとしか歩けない人のようなものだ。ところが周りの人たちは、早足で歩いている。そこで傷を忘れて、「早足で歩こう」ということになった。しかし、そうすれば、傷口から出血して死んでしまう。「傷を治してからでないと早く歩けない」というのは、考えてみれば、当然のことである。

週刊東洋経済2013年7月13日号

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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