一方、2016年11月以降はといえば、トランプ次期政権の減税やインフラ投資といった財政政策に対する期待、また、それによってFRB(米国連邦準備制度理事会)が利上げペースを速めるのではないかとの観測で、米国の長期金利が急速に上昇した。加えて、日銀が今年9月に決定した「イールドカーブ・コントロール」によって、日本の10年債利回りはゼロ%付近に維持されているため、日米10年債利回りは拡大。ある意味実態を伴った円安ドル高といえる。
黒田総裁も今回の会見で、「ドルはさまざまな通貨に対して上昇しており、円安というよりドル高だ」と述べ、「2%の物価安定目標にはまだなお距離がある。強力な金融緩和を推進することが適切だ」との見解を示した。つまり、急速な円安を心配するよりも、2%の目標にはほど遠い足元の物価を押し上げることが最優先だということだ。為替についてもドル高で説明がつくうちは様子をみる構えだろう。
翻って、米国当局にとって足元のドル高に懸念はないのだろうか。
ムニューチン次期財務長官は通貨安志向ではない
これについては、次期米国財務長官のスティーブン・ムニューチン氏が11月末に経済専門放送局CNBCの番組にゲスト出演した際の発言が参考になる。キャスターに「米国は今後通貨安にして輸出を伸ばすのか、あるいは通貨高にして投資を促すのか」と、通貨政策についてコメントを求められると、同氏は「アメリカが素晴らしい国で、投資マネーが流入しているからこそドル高が起きているとみている。したがってアメリカの経済成長と雇用の拡大こそが、我々のトッププライオリティーだ」と述べた。つまり、トランプ次期大統領の選挙中の発言に垣間見られた「通貨安志向」は特に強くなく、米国の景気がよい分にはドル高はある程度許容できるというスタンスであろう。
日米双方が少なくとも足元の為替相場に違和感を持たないのであれば、ポジション調整以外に大幅なドル安円高となる可能性は低い。
「米国の次期政権の財政政策が景気を支え、FRBが利上げを段階的に実施、これによりドル高が進む」とのストーリーがワークする間は、堅調なドル高円安地合いは続くとみてよいだろう。
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