【末吉竹二郎氏・講演】地球温暖化時代における企業の役割(その2~アメリカのしたたかさ~)

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第11回環境報告書賞 シンポジウム・基調講演より
講師:国連環境計画・金融イニシアチブ 特別顧問 末吉竹二郎
2008年5月15日 東京會舘

その1より続き)

●グラスルーツが動かす

 アメリカは、ブッシュ大統領がいるために京都議定書には無関心だと言われてきた。しかし、最近では大きく変わっていて、既に日本を追い越して遥か先にまで行ってしまったとさえ言われる。アメリカに大きな変化を起こしたのは一般市民の変化である。
 今、アメリカ連邦議会には10本を超える、キャップ・アンド・トレード(温室効果ガスの総排出量の上限を設定し、個々の企業などが排出枠の過不足分を取引する)に関する法案が提出されている。そのうちの1本は、既に委員会を通り、6月早々に上院に出される予定になっている。現在の連邦議会では、キャップ・アンド・トレードがアメリカに導入されるかどうかという段階を既に通り過ぎて、いつ導入されるかという議論に移っている。早ければ2010年には、アメリカにも導入されるという見方がある。
 さらに、もし連邦政府が動かなければ州レベルでやろうという動きがあり、20を超える州が参画する地域連合が生まれている。また、市のレベルでも、連邦政府が京都議定書を離脱したのであれば、市のレベルでやろうと1200の市が参加している市長会で830を超える市が京都議定書並みの削減に向けて取り組みを始めている。これがアメリカの実態である。

●規制こそ活力を生む

 アメリカの主要な大企業がつくるUSCAP(United States Climate Action Partnership:米国気候行動パートナーシップ)は、2007年1月に連邦政府に、「アメリカも早く法律による削減義務を取り入れ、それに伴う排出量取引制度をスタートさせてほしい」という要求をした。規制こそイノベーションを生み、アメリカの産業の国際競争力を増すから、早く取り入れてほしいというのが、アメリカの主要企業の今の考え方なのだ。

 その典型例として、GEの「Green is green」がある。最初のgreenは環境、2つ目のgreenはドル紙幣(greenbacks)のことで、「環境はカネだ」ということである。
 GEのインメルト会長は、「GEのお客様が環境配慮型商品、省エネルギー商品を多く求めるようになった。それに応えるのがGEの務めであり、顧客ニーズを満たすということだ。顧客ニーズに応えれば物が売れ、売れれば会社が儲かる。会社が儲かれば株主が喜ぶ。これがCEOとしての私が最も望むところだ。その結果として、社会が大きなベネフィットを受けるから、環境配慮型商品に取り組むのだ」という。
 こういうストーリーを語りながらGEはエコと技術のイマジネーションを組み合わせた「エコマジネーション」という言葉をつくった。この分野の売上げが優に1兆円を超え、2009年には目標を1年前倒しして2兆円を達成する見込みになった。
 同じ取り組みも、ポジティブに捉えていくのか、プロアクティブに捉えていくのか、パッシブに捉えるのか、リアクティブに捉えるのか。これからは、取り組み方が大きな差を生むと考えられる。

 ところが、このような問題に対して日本のある有力団体は、「規制は企業の自主性を損なう」「規制は、やがて官僚統制を招く」「規制は、国の産業の国際競争力を損なう」などと、真っ向から対立する見解を出しているのだ。
その3に続く、全6回)

末吉竹二郎(すえよし・たけじろう)
国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP・FI)特別顧問。日本カーボンオフセット代表理事。1945年1月、鹿児島県生まれ。
東京大学経済学部卒業後、三菱銀行入行。ニューヨーク支店長、同行取締役、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取、日興アセットマネジメント副社長などを歴任。日興アセット時代にUNEP・FIの運営委員会のメンバーに就任したのをきっかけに、この運動の支援に乗り出した。企業の社外取締役や社外監査役を務めるかたわら、環境問題や企業の社会的責任活動について各種審議会、講演、テレビなどを通じて啓蒙に努めている。
著書に『日本新生』(北星堂)、『カーボンリスク』(北星堂、共著)、『有害連鎖』(幻冬舎)がある。
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