「ジプシー」が見つめるヨーロッパ難民危機 「バルカンルート」に漂う難民たち<中編>

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イスラム教徒とキリスト教徒が混在するシュトオリザリのロマたち

なぜアジアの故国を出て、西への旅を続けたのかは不明。ただ、ヨーロッパ全域に広がったロマは、その土地の宗教を受け入れ、その土地の言語を使いこなし、それぞれの土地に居場所を作っていった。だから、ロマにはカソリックもプロテスタントもムスリムもいる。

それでも彼らはヨーロッパのどこに行っても嫌われ者だ。社会的、制度的な差別もあり、失業率も高い。しかし逆説的だが、その嫌われ方の定着ぶりを見ていると、長い年月をかけロマはそれぞれの場所で、それぞれがもうヨーロッパの一部になっているとも思える。

「シュカール・アカテ(ここはすばらしい)。ロム・ブート(ロマの人たちが大勢いるからね)」

そうロマニー語で話すロマの男にシュトオリザリで会った。彼は難民としてドイツに行って、家族と住んでいたことがあるという。キリスト教徒でドイツ語も堪能だった。

それでもロマは迫害される

最近ドイツから戻ったという男は、自身の経験をふまえ、欧州で目の当たりにするロマと中東難民の現実を話す。

「数が少ないうちはいいんですよ。ヨーロッパの人は難民か移民か関係なく、結局は異質な存在のわれわれを受け入れません。これだけ長くそばに住んでいるのにロマは迫害されます。中東難民がイスラム教徒ならなおさらです。多数になって脅威になれば排除します」

ばらばらだった中東の難民や移民が、「イスラムの塊」となって見え感じたとき、「ひとつの欧州」は別の顔を彼らに向け始めたのだった。

(写真:すべて著者撮影)

※(下)に続く

木村 聡 写真家、フォトジャーナリスト

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きむら さとる / Satoru Kimura

1965年、東京都生まれ。新聞社勤務後、1994年からフリーランス。国内外のドキュメンタリー取材を中心に活動。ベトナム、西アフリカ、東欧などの海外、および日本各地の漁師や、調味料職人の仕事場といった「食の現場」の取材も多数。写真展、講演、媒体発表など随時。

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