日韓関係はトランプ政権下で劇的に悪化する 米国という「重石」がなくなる東アジアの悲劇

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そして、こうした南シナ海、あるいは東アジアにおける米国の戦略は、前述した「三つの空間」を争うためのごく一部のものでしかない。さらに、それに対して中国が手をこまねいているわけでもない。

「重石」のとれた韓国が牙を剥く日

『トランプvs習近平 そして激変を勝ち抜く日本』(KADOKAWA)。「トランプの米国」は膨張する中国にどう対峙する?そこで日米同盟は機能する?「戦後体制」が真に終わるいま、日本の国益とは何なのか。トランプ勝利後、稀代の中国ウォッチャーが書き下ろした渾身の一作。 画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

それでは、こうした米中の対立が構造的なものだとすれば、トランプが米国を率いるようになっても、アジアの安全保障環境はそれほど大きく変化することはないのだろうか。

必ずしもそうではない。

少し矛盾するように聞こえるかもしれないが、トランプの裁量が、アジアの政治環境にインパクトを与える余地が排除できない、と考えられるからだ。

どういう意味か。わかりやすく言おう。それは米国がいったいどこまでを自国の「国益」とみなしているのか、ということだ。

現状、世界の成長エンジンとしてのアジアの可能性が揺るぎないならば、米国が同地域で圧倒的な存在であることは、譲れない「米国の国益」である。と同時に、前述した三つの空間の支配が国際社会におけるルールメーカーとしての米国の絶対的な地位保全に不可欠なら、米国のアジアへの関与は選択の余地がないものにもなる。

しかし問題は、それを達成するプロセスが、従来の同盟関係を重視したうえでのことなのか、あるいはそうでないものになるのか、ということなのだ。つまり、はたしてトランプは同盟関係の維持を米国の「国益」と考えているのか、ということである。

そして、日本からすれば、この点に関してこれまでのアジアの秩序に大きな変化が生じるおそれがあるのが、日韓関係なのである。冒頭に紹介した中国のメディア関係者が指摘するのは、まさにこの視点だ。

いわゆる慰安婦合意が結ばれた現在ですら、日韓はいまだに歴史問題をめぐって感情的な対立を続けている。そんな日韓が、朴政権のスキャンダルによって、韓国の政権の求心力が最高度にまで低下、弾劾案が可決されるような逆風のなか、韓国にとってはかつての「侵略国」日本と防衛秘密を共有する協定を締結するというのは、本来であれば絶望的に困難なことだ。

にもかかわらず、韓国が署名にまでこぎつけたのは、間違いなく先にみた「米国のプレッシャー」があったからである。

この一事をみても、米国の存在が日韓間の対立のなかで、非常に重要な「重石」の役割を果たしてきたことは、疑いない。そして「トランプの米国」になったときに日本が懸念すべきは、この「重石」がとれてしまうことなのだ。そうなったとき、日本は韓国のむき出しの反日感情に直面することが、いまから十分に予想できるのである。

富坂 聰 ジャーナリスト・拓殖大学教授

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とみさか・さとし / Satoshi Tomisaka

中国ウォッチャーとしては現代屈指の一人。1964年愛知県生まれ。北京大学中文科中退。週刊ポスト、週刊文春などで名を馳せたのち、独立。中国の内側に深く食い込んだジャーナリストとして数々のスクープを報道。2014年より、拓殖大学教授。

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