日本橋浜町においしい店が集まり始めた理由 やり手プロデューサーが「町おこし」
というのも、安田不動産で浜町まちづくりの店舗誘致を行う開発事業本部の澤田月来男(つきお)部長は、大の“うまいもの好き”。繁盛店を誘致したというよりは、自分がなじみになった店を、浜町の町づくりのために引っ張って来たというほうが近い。うまいもの好きのネットワークにより、水面下で人気が高まることを狙った。
「うまいもの好きというのは、本来なじみのお店をあまり人に教えたくない。人気店になって話題性先行になってしまったり、多店舗化するようなことになると、お店のよさが失われてしまうからです。浜町に出店していただいたお店は“この人だけには”教えたいと思うお店ばかりです」(澤田部長)
安田不動産は、もともと旧安田財閥の残余資産を引き継いで1950年に設立した企業。浜町界隈にも多くの地所を所有したが、ほとんどが貸地で、そこを借地人の人たちと一緒に、“再開発”ならぬ“町おこし”してきたというのが、浜町プロジェクトの経緯だ。
日本橋浜町Fタワー(1998年)、スカイゲート(2003年)、トルナーレ(2005年)と、これまで安田不動産が手掛けた再開発ビルが商業やオフィス、マンションの複合施設であるのも、個人の共有権利者が多数存在することが一因である。2016年9月からは、ブティック系のホテルプランニング・運営が得意なUDSと組んで、町に融合するホテルの建設も進めている。
マルシェを日曜日と月曜日に開催
地元住民や働く人にとって魅力ある町にしていくには、単に建物をつくればよいというわけではない。ハコに中身を入れ、さまざまなプレーヤーを巻き込みながら有機的に運営していく必要がある。その一環として、トルナーレ1階の広場では季節ごとに、産地直送の野菜や加工品、雑貨などのマーケット「浜町マルシェ」を開催。住民と地域で働く人たち双方が楽しめるよう、日曜日と月曜日の2日間にわたって開催される。
住民や働く人たちのコミュニティの核となり、地域に活気を与える存在として、繁盛している商業者も必須である。
飲食店誘致にあたっての条件は、チェーン化していないこと――店主の顔が見える小さな規模のお店、浜町の町づくりに賛成してくれること、の3つだった。安田不動産の物件を安く貸すだけでなく、店舗の建設費なども安田不動産で負担する。
「町の中に点在する狭小な駐車場スペースであったり、古い住宅を活用して、“特別なお店”のために“特別な建物と空間”を用意してお使いいただくようにしています。金子さんについては、通い詰めていた神楽坂のおそば屋さんで、たまたま独立したいとの話があった。じゃあ、浜町で開店してよ、とお願いして来ていただきました。ほかの店についても、浜町ならではの町の魅力に相通じるものがあると感じた店を、長い時間をかけて1本釣りで誘致してきました」(澤田部長)
普段から通い詰めている澤田部長だからこそ、店にとってよいタイミングを見計らうことができたと言える。実は、店主の金子氏は人形町の大通りに面した物件をすでに見つけていたところだった。駅近の繁華街であるから、客観的に見ればそちらのほうが好立地だ。しかし、破格の条件と、「静かな界隈のほうが自分の店に合っている」(店主の金子泰史氏)との考えもあり、一も二もなく、浜町での開店を決めた。
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