インド人の移民である彼女は、ウェストバージニア州で育ち、リベラルな民主党員として、人工妊娠中絶と同性婚を支持し、気候変動を認め、2008年はオバマ大統領に投票した。
だが、自身がイスラム教徒であるノマニ氏は「オバマ大統領と民主党政権がイスラムの問題をうやむやにしていることに納得していなかった」という。現在の世界で彼女が最も懸念している問題は、「ムンバイのタージマハル・ホテルの廊下からフロリダ州オーランドのナイトクラブのダンスフロアを血まみれにしたイスラム過激思想」であった。
これには特殊な事情もある。ノマニ記者は、2002年にパキスタンで誘拐され、殺害されたダニエル・パール記者の元同僚であり、彼がアルカイダ系のテロリストの罠にかかり還らぬ人となる前に最後に一緒にいた親友でもあった。
オバマ大統領やクリントン候補への不信
彼を殺したイスラム過激思想を激しく憎んでいることは当然とも言える。彼女は、オバマ大統領とクリントン候補がイスラム世界の原理主義と過激思想の問題を明確に定義しないでいたことに不信感をつのらせ、イスラム国やスンニ派の過激派組織に資金を提供しているカタールやサウジアラビアなどの神権独裁国家からクリントン財団に資金が流れていたことが明らかになると、もはやクリントン候補を一切信用できなくなった。
ただしこうした不信感は、ひとにぎりの中東関係者に限られたものではなかった。ノマニ女史の寄稿後、彼女のメールボックスには脅迫文めいたものも届いたが、共感を寄せる白人至上主義者でも教育レベルの低い失業者でもない隠れトランプ支持者からの便りが殺到したそうだ。
6月のオーランドでの銃撃事件も、その前のカリフォルニア州での銃乱射テロ事件も、アメリカ国内で起こったテロだ。9・11以降、テロへの恐怖が世論を支配し、ジョージ・W・ブッシュ政権以降の外交政策に影響を及ぼし、そのトラウマはいまも続いているのだ。ちなみに資本主義の象徴であるマンハッタンの落とし子であるトランプもまた、9・11を身近に経験している。
トランプ次期政権の目玉は、米国労働者の雇用を守り、「偉大なアメリカを取り戻す」という経済政策と共に、イスラム過激派とその教義を敵と定め、中東問題と真っ向から向き合うという安全保障政策となるだろう。
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