トランプ政権はイスラムとの戦いに邁進する

ハンチントン「文明の衝突」の予言が現実味

少し古い枠組みのようだが、今回の選挙は、冷戦後、20年ほど前に国際政治学の世界ではやったフランシス・フクヤマ氏の『歴史の終わり』とサミュエル・ハンチントン教授の『文明の衝突』というふたつの世界観がぶつかった戦いでもあったともいえる。ふたつの世界観は、グローバルな世界と深いかかわりを持つアメリカ人の認識のなかでせめぎ合い、『文明の衝突』に軍配をあげた有権者も一定数存在したのだ。

『歴史の終わり』とは、冷戦の終焉により、経済のグローバル化が進行し、世界は西側のリベラルな民主主義の普遍化によってひとつになる、という楽観的な見方。これはビル・クリントン大統領に始まり、オバマ大統領の誕生でクライマックスを迎えた自由貿易協定や異文化間の融和、多様性の容認に象徴される世界観だった。

ビル・クリントン政権下のアメリカは、IT革命に助けられて好景気に沸き、パレスチナの和平合意が締結され、台頭しつつある中国への建設的なエンゲージメントによりアジア太平洋経済圏への経済関与も深まった。これらの根底にあったのは、共産主義と資本主義のイデオロギーの戦いが終わったことで、自由資本主義のグローバル化と貧困の撲滅によって世界経済はいずれ紛争の根源も断つことができるという世界観だった。

ハンチントンの予言が現実味

他方、アメリカ国内のテロで過激思想の脅威がリアルに感じられはじめ、ハンチントンの予言が現実味を帯び始めた。

彼が『文明の衝突』で提起した冷戦後の世界の最大の課題は、イデオロギーの対立の終焉によって顕在化した異文明同士の対立、より具体的には異なる宗教、信仰の間の断絶と、それにともなう境界国家での国境紛争、グローバルな世俗化への反動としての原理主義の台頭と、それが正当化する武力衝突であった。

幸いなことに中東の紛争やテロから比較的距離をおくことができている私たちも、少なくとも、得体の知れないイスラム過激派のテロへの恐怖に比べれば、トランプ候補の女性蔑視のロッカールームトークや人種差別ともとれる物言いなど取るに足らないディテールであったという一面にも目を向けるべきだろう。

なぜなら、これから数年間のアメリカ外交の中心は、ブッシュ政権以前同様ふたたび中東とテロ対策に回帰し、日米同盟もおそらくは日本の防衛政策の全体も、その文脈をふまえて独自の道を探っておく必要にせまられることが予想されるからである。

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