米国人女性の5人に1人がレイプに泣いている 温和な好青年がレイピストに化けるワケ

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レイプ被害を受けたことから性的関係を拒むようになる人もいる一方、自己破壊的な感情から、暴飲したり見境のないセックスに走る被害者も多くいる。だがそうしたトラウマの症状が理解されていないために、「ああいう行動をとっていたらレイプをされても当然だ」と逆に非難をしたり、「レイプをされるのは女性側に責任がある」という言説が生まれたりする。

こうした誤った固定観念に囲まれ、被害にあった女性たちは、報告することを意識的あるいは無意識的(反射的)に避けてしまう。

レイプ被害を断つ勇気をくじく司法制度

深刻なのはこうした固定観念が警察・検察にも存在していることだ。

レイプの被害届を出した女性に対して警官がよく「付き合っている人はいるか」と質問をする。これは、彼氏を裏切り別の相手と性行為をしたことを隠すため「レイプをされた」と嘘をついていることを疑うためだ。

米国司法省が2014年2月14日に発表した報告書は、レイプ被害を受けた女性たちが、郡検事補に投げやりな対応や無礼な対応をされたこと、たびたび性暴力の深刻さを矮小化し、加害者の責任を軽視する発言をしていたことを明らかにした。こうした郡検事補とのやりとりが「トラウマになった」と語る女性や、別の女性に訴追することを「絶対勧めなかった」という女性たちもいる。

ほとんどの犯罪で、警官は証人全員の事情聴取がすみ、入手可能な証拠が集まるまで、被害者を常に信じ寄り添うのに、性的暴行事件となるとそうしたアプローチをしない警官が多いことや、ひったくりや強盗の事件の際には被害者の証言に対して懐疑的にならないのに、性的暴行事件においては被害者に対して疑いの目が向けられがちであることも、本書は批判している。

司法制度のなかの「個人」の意識に限らず、制度そのものが抱えている問題もある。

例えば、被害者側の代弁者ともいえる検事は、州の利害を代表する法的責任は負っているが、被害者個人の利害を代表する必要はない。被害者と話し合うことは義務付けられてはいるが、被害者の嘆願を聞き入れることは義務付けられていないのだ。

「当事者対抗主義」が生み出す矛盾もある。「法律家は代弁者として依頼人の立場を熱心に保護し追求する義務」があるとする、この主義のもとでは、正義や真実よりも、適正な法的手続きに従うことのほうが重要になる。本書に登場する被疑者の弁護人もまた、被害者女性に対して誤解を生むような発言を法廷で繰り返すことで被害者側の形勢を不利にしようとするが、これは弁護側にとっての”依頼人”すなわち被疑者を保護する立場としては正当化される。

さらに、裁判のしくみもまた、トラウマを抱えるレイプ被害者を苦しめる。

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