米国人女性の5人に1人がレイプに泣いている 温和な好青年がレイピストに化けるワケ

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「被害者に必要なのは、社会的に認められ、支援を受けることだが、裁判所から求められるのは、信用性を世間に疑われるという状況に耐えることである。被害者に必要なのは、自分は無力ではないという感覚を確固たるものとし、人生をコントロールすることだが、裁判所から求められるのは、理解できないかもしれず、コントロールすることもできない、複雑な規則と手続きの体系にしたがうことである。被害者に必要なのは、自らの力で、自ら選んだ場で話をする機会だが、裁判所から求められるのは、論理的で意味のある話を組み立てようとする個人の試みを打ち砕く、イエスかノーの質問に答えることである。被害者にしばしば必要なのは、トラウマを思い出させる特定のものにさらされないように、コントロールしたり制限したりすることだが、裁判所から求められるのは、犯人と直接対峙し、記憶をよみがえらせることである」
(ハーバード大学精神医学教授 ジュディス・ルイス・ハーマンの論文)

 

こうした司法制度の構造や実情が、繰り返されるレイプ被害を断つために勇気をもって立ち上がろうとする女性たちの心をくじき、傷つけている。

「レイピスト」の無自覚さ

『ミズーラ 名門大学を揺るがしたレイプ事件と司法制度』(亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ II-12)  書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

3つ目は「レイピスト」像の誤解とレイプ加害者の無自覚さの問題だ。

「レイピスト」は恐ろしい凶悪犯や異常犯のように考えられがちだが、実際には、好感のもてる人物や社交的な人、親切で穏やかそうな人である場合もある。内気に見える人もいる。顔見知りによるレイプの米国内随一の専門家と目される臨床心理士、デイヴィッド・リザック博士によれば、レイピストを人格や心理学的プロファイルで特定することは現実的に不可能だという。

リザック博士とポール・M・ミラーが1991〜98年にマサチューセッツ大学ボストン校の男子学生1820人に対して行った研究では、サンプルの6.4%(120人)がレイピストと特定され、そのうちの63%(76人)が一人当たり平均6件近くレイプ事件を引き起こしていたことが判明した。しかも被験者全員が自発的に調査に参加しており、誰も自分をレイピストだとは考えていなかったのだ。仲間内でもレイプなどしない善良な人間だと考えられていた。

「レイピストというのはスキーマスクをかぶり、ナイフを振りかざし、女性を茂みに引きずり込むやつだという共通の認識がある……だから、自分がレイピストだという感覚がまったくなくて、とにかく喜んで自分の性行為について話すんです」
「自分自身の世界観にとらわれているんです。自分の取った行動を被害者の視点から考える能力が欠けています」

 

とリザックは語る。

無自覚なレイピストが、訴追されることなく、罰を免れつづけることで、レイプ被害は繰り返される。そして被害者が続々出るにも関わらず、その真相が語られ、明るみに出ることを阻む社会構造が存在している。

果たしてこの"悪循環"はアメリカに限られるものなのか。そして、私たち一人一人の個人と無関係なことなのか……。目をつぶりたくなるくらいの被害者たちの”叫び”が詰まった本書『ミズーラ 名門大学を揺るがしたレイプ事件と司法制度』を読めば、考えずにはいられなくなるはずだ。

アーヤ藍 HONZ

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ユナイテッドピープル取締役。ドキュメンタリーを中心に、社会問題をテーマとした映画の配給宣伝に携わる。小さい頃から現代美術、演劇、映画にはよく触れてきたが、共通して、人間の心理や社会構造を炙り出しているような作品を好む。戦争・紛争、心理学・コミュニケーションが最近のメイン関心分野だが、基本的には飽き性で雑食。

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