「認知症患者の行動」家族が背負う責任の重さ 法的問題と加害者になるのを防ぐのは別問題
この事故がもとでA氏は亡くなってしまったのだが、鉄道会社としては、A氏の妻や子の監督に問題があったとして訴えたのがこの裁判だ。
裁判所は、妻自身も高齢で障害があったこと、子も遠方に住んでいて20年以上もの間、同居していなかったという事情を考慮して、家族には列車事故を防ぐための監督義務はなかったという結論を出している。
認知症患者の徘徊(はいかい)を完全に防ぐということは難しい。妻自身また子自身の状況や生活などを踏まえると、突発的に自宅を出てしまうことを防ぐことはできないわけで、列車の事故を防ぐために義務があったとするには酷であるということだろう。
家族が責任を取ることになるケースとは?
ただ、どのようなケースでも責任なしとはならないので注意が必要だ。
判決の中では、同居の有無や日常生活でのかかわり方、認知症患者の日常の行動などを総合的に判断して、特別の事情があるようなケースでは、責任が発生する場合があることを述べている。
つまり責任があるかどうかは、日常のかかわり方次第ということになる。認知症の症状がある家族がいたとして、自動車を運転し、行った先で迷子になって自宅に戻れなくなってしまうことが度々あった……というような場合はどうだろうか。
行った先で迷子になってしまうというのは、認知症の症状から、記憶力や判断力が低下している状態にあることは明らかといってもいいだろう。
判断力が衰えている状態で自動車を運転した場合、交通事故を起こしたら、時に死亡事故に発展してしまうことは容易に察しがつく。
親の子供に対する監督義務のように生活全般に及ぶことはないだろうが、差し迫った危険があれば、この部分については限定的に監督をする義務が発生すると判断されることは十分にあり得る。
つまり、自動車の運転を止めさせることができるのは家族しかいないわけで、これを止めさせずに放置しているといった場合、家族の責任が問われるケースが出てきても不思議ではないということだ。
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