「フルタチさん」苦戦の裏にある新しい挑戦 古館伊知郎はあえて「正解」から背を向けた

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また、芸人に限らず、いまやほとんどのバラエティ番組では出演者同士の絡みが重要な構成要素になっている。キャラの強いアイドルやモデル、文化人が毎年入れ替わり立ち替わり出てきては、芸人MCにイジられてその魅力を発掘され、売れっ子になっていくという一連の流れがある。「イジる・イジられる」「ボケ・ツッコミ」といった関係性の中から笑いが生み出されていくことが普通になっているのだ。

「フルタチさん」は異例づくしの番組だ

そんな中で、「フルタチさん」は異例づくしの番組だと言える。古舘が司会を務め、日常の中で引っかかることを取り上げて、その謎を検証していく。何に引っかかるのか、どういうテーマを取り上げるのか、ということに関しても、古舘本人の意向がかなり反映されているのがうかがえる。1人のMCが絶対的な権力を握り、個人の感覚を前面に押し出して企画を進めていく。ここまで実験的な番組は今どき珍しい。初回放送の冒頭で古舘はこう語っていた。

「今日の趣旨は『引っかかる』っていうことですね。やっぱりあの普段生きていて、疑問があったりすると、すぐスマホで検索してパッと答えを見いだしちゃう時代で、それはそれでとっても便利でいいんだけれども、なんか答えが出ないでボーッとするとか想像力をめぐらせるとか、そういう時間が圧倒的に少なくなっている気がするんですよね」

いわば、「フルタチさん」は視聴者に答えを教えてあげる番組ではなく、問いかける番組なのだ。バラエティの企画には「グルメ、クイズ、衝撃映像」といった正解があり、バラエティのつくりには「芸人を中心にした出演者同士の団体芸」という正解がある。久しぶりにバラエティの世界に舞い戻ってきた古舘は、そういった通り一遍の「正解」に背を向け、ゼロから問いを発信しようとしている。

もちろん、裏番組も強く、容易な戦いではない。古舘の本当に伝えたいことがどこまで伝わるのかは今後の番組を見てみないとわからない。ただ、長年テレビの世界に生きてきた人間が、これからテレビという舞台でまた新しい挑戦をすること自体に、胸が高鳴る思いだ。古舘が敬愛してやまないアントニオ猪木の言葉を借りるなら「出る前に負けること考えるバカいるかよ」ということになるだろう。還暦を過ぎてもファイティングポーズを崩さず、未知の領域に踏み出す古舘の挑戦を見守りたい。

(敬称略)

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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