「フルタチさん」苦戦の裏にある新しい挑戦 古館伊知郎はあえて「正解」から背を向けた

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2016年3月に番組を降板すると、そこから古舘の逆襲が始まった。長年積もりに積もった鬱憤を晴らすかのように、いろいろな番組に顔を出してしゃべりまくった。「人志松本のすべらない話」(フジテレビ系)では、芸人たちに交じって古舘流の「すべらない話」を披露。「しゃべくり007」(日本テレビ系)では、「報道ステーション」の裏番組で視聴率が高かったこの番組は本当に嫌だった、と今だから言える本音をぶちまけてみせた。

「すべらない話」に出演して感じたこと

「すべらない話」に出演した後、古舘は「古舘伊知郎のオールナイトニッポンGOLD」(ニッポン放送)で、その時のことを振り返って興味深い話をしていた。収録前、古舘はこの番組のことを「個人戦」だと思っていた。芸人たちが集まり、それぞれがとっておきの面白い話をぶつけ合っていくものだと考えていた。

いざ収録が始まると、そんな古舘の予想は覆されてしまった。芸人たちは、他の芸人の話が盛り上がらないと、ツッコミをいれたり野次を飛ばしたりして、全員でそこにオチをつけて笑いに変えてしまう。芸人たちが一丸となってお互いを助け合い、フォローし合いながら番組を作り上げていく様子を見て、「あっ、これは個人戦じゃなくて団体戦だったんだ」と気付かされた。

だが、時すでに遅し。芸能界の大先輩であり、芸人でもない古舘は、その場にいる芸人たちに気を使われる存在だ。芸人同士の集団芸の輪の中には入れてもらえない。それに、古舘はトークの達人ではあるが、そのしゃべりのスタイルは芸人とはまったく違っていた。芸人たちは話の最後に確固たるオチをつけようとする。最後にドカンと笑わせて終わる、という基本的な型があり、それに沿って話を組み立てていこうとする。

一方、古舘の話し方はそれとは異なる。最後に盛り上がりを作るわけではなく、全体を通して一定のトーンで立て板に水のようにしゃべり続ける。細かい情景描写を中心にして、言葉の力だけで聞く人を巻き込んでいく話芸である。

よどみなく進んでいく古舘のトークには、合いの手を入れたりする隙がない。また、明確なオチも用意されていないので、話し終えた後にオチを待つ芸人たちとのあいだに妙な間が空いてしまう。好きなことを話せばいいのだと気楽に構えていた古舘は、そこで行われている戦いが個人戦ではなく団体戦だったことに気付き、戸惑いを隠しきれなかったという。

このエピソードからうかがえるのは、古舘がバラエティから離れていた期間の長さだ。「報道ステーション」に出ていた12年の間に、バラエティ番組の作り方にも大きな変化があった。この時期にいわゆる「ひな壇番組」が増えて、芸人たちが「集団芸」で笑いを生み出していくトークバラエティがすさまじい勢いで増えていった。前述の「人志松本のすべらない話」「しゃべくり007」はもちろん、「アメトーーク!」などもそういう番組の典型と言えるだろう。

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