アップルは、どうして「日本」を重視するのか ティム・クックCEO「日本訪問」の舞台裏

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アップルの決算サマリーの中で、2ケタ成長を続けているカテゴリーが2つある。1つはサービスカテゴリー。ここにはApple MusicやApp Storeからの収益が含まれる。順調に会員数を増やしている音楽定額サービスや、ポケモンGOなどの大ヒットアプリから得られる手数料収入もだ。12月15日には待望の任天堂「スーパーマリオ・ラン」もリリースされ、世界的に爆発的なヒットが期待される。

そしてもうひとつの2ケタ成長カテゴリーが、日本市場だ。2016年第3四半期は、iPhoneモデルチェンジの端境期で、中国以外の世界中の市場でマイナス成長となっていたが、日本市場だけは23%の成長を記録。そしてiPhone 7の伸び悩みも指摘された2016年第4四半期は、米国市場ですら7%減を記録する中、日本市場は10%の成長を確保している。市場規模は米州の約5分の1、中国や欧州の3分の1しかないが、「もっともアップルを好意的に受け入れている国」が、現在の日本なのだ。

クック時代の誉れ「アップルペース」

ティム・クック氏はiPhone 4S登場の2011年に、共同創業者であり当時のCEOだったスティーブ・ジョブズ氏からCEOの職を受け継ぎ、同年10月、ジョブズ氏は他界した。もう5年も前のことであり、iPhoneを中心とした戦略を深化させたクック氏は、アップルを時価総額世界一の企業へと成長させた。

Androidがシェアを85%を占める世界のスマートフォン市場において、アップルは100%を超える業界における利益シェアを確保している。つまり、Android陣営のメーカーを総合すると、薄利多売で損失を出しているということを表しており、株式公開している営利企業として持続的な成長を確保する、極めて健康的な状態を保っている唯一の米国企業となった。

筆者が米国カリフォルニア州に渡り、アップルを間近で取材し始めたのは、ジョブズ氏が亡くなった1カ月後からだった。そこで驚かされたことは、アップルは米国の人々の歩みにぴったりと寄り添って、テクノロジーを送り出している、ということだ。

日本からアップルを見ていて、また多くの人にとって、アップルは革新的な企業だ、という印象を抱くことが多い。しかし筆者は米国で取材し、その印象を180度変えた。アップルはむしろ、テクノロジーの歩みを、業界を率先して緩やかなものにしている、という感想を持ったからだ。

スマートフォンも、アップルが最初ではなかったが、タッチスクリーンで誰もが簡単に使える形で提案されたのがiPhoneだった。スマートウォッチはすでにさまざまな製品が出回っていたが、Apple Watchの登場で、市場が花開いた。きっかけとしてのアップルが米国のテクノロジー市場に存在している。

これは、革新的、破壊的、といわれるよりも名誉なことだ。多くのテクノロジー企業には、さまざまな理由で、この「ゆっくりとした発展」ができないからだ。理由はいろいろだ。スタートアップ企業にとって、キャッシュと時間はイコールで語られることが多い。そのため、できるだけ速く製品を出す必要があるし、社会を無理矢理揺り動かすことが、企業の成功の仕様にもなっている。

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