アップルは、どうして「日本」を重視するのか ティム・クックCEO「日本訪問」の舞台裏
一方、潤沢な手元資金を背景に新しいことに取り組めるアップルは、時間に追われて製品を送り出す必要がない。実際に、iPhoneで1年に1度の新製品、Macでは4年に1度のモデルチェンジ、数年寝かせて新たなデバイスをリリース、というサイクルに耐えられる体力がある。にもかかわらず、ティム・クック氏は「アップルは巨大企業ではなく、ベンチャースピリッツを持った小さな企業」という感覚を維持しているという。正しいことをじっくりと、もっとも適するタイミングで実行できる企業なのだ。
同時に、最新のテクノロジーをいちばん初めに披露するのではなく、人々の生活を本当に便利に変えるまで熟成させて提案するまで待てる、というマインドセットが、緩やかで確実な変革のペースを作り上げている。その結果、スマートフォンもウエアラブルデバイスも、アップルが動いて初めて市場が動き出すというサイクルを何度も目にすることができた。テクノロジー業界から見れば「後出しで利する」と見えるかもしれないが、一般の人々にとって心地よい「アップルペース」が生み出されている。
日本に感じる「10年のアドバンテージ」
ティム・クック氏は10月に行われた日本経済新聞のインタビューで、スマートフォンが1人1台の時代が実現する分野であるとの認識を示した。まだまだ発展の余地がある、と語っている。誰もがスマートフォンを持ったときに何ができるか、ということで、iPhoneの上でも健康管理や決済分野の拡充、スマートホームなどの「生活連携」のサービスの充実が進んでいる。
2005年にキャリアをスタートさせ、携帯電話とライフスタイルについて取材してきた筆者は、アップルが今取り組んでいることへの強い既視感を感じている。ちょうど10年前に、日本の携帯電話がたどった発展の道を、現代の技術で取り組んでいるように見えるからだ。ちなみに日本では、2007年4月の段階で携帯電話の契約数は9700万件を超えており、10年前には1人1台以上の時代へと突入しつつあったこととも一致する。
たとえば、クック氏が体験したiPhoneでのSuicaは印象的な機能だが、それ以上に注目すべきは、iPhoneがFeliCaをサポートするだけで、すでに日本中のコンビニやタクシーを初めとする店舗に普及しているFeliCaリーダーを用いた電子マネー・クレジットカード決済をサポートできた点だ。
米国でのApple Payは、いまだに利用店舗の拡大のペースが上がらず、極限られたタイミングでしか利用できない。筆者はApple Payサービス開始時に東京にいたが、同じサービスにもかかわらず、日本での便利さに驚かされるほどだった。
それだけ、モバイル時代のインフラが、日本には10年先行して普及している。同時にわれわれユーザーの体験も、米国を初めとする世界と比べて、いまだ10年分のアドバンテージがある。そこでiPhoneが受け入れられていることは、アップルの未来にとって、特別な意味を持つだろう。
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