日本の美術品、ただ今、中国へ流出中 活況呈す中国のオークション

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中国は今や米国、英仏の欧州と肩を並べて、世界3大オークション市場になったと言われる。ひるがえって日本を眺めてみれば、オークション市場が未発達なままで、中国の市場規模が数千億円なのに対して、日本では100億円程度にとどまっている。日本にはいくつか中小規模のオークション会社があるが、世界2大オークション会社のサザビーズとクリスティーズは日本でオークションを行ってはいない。

日本でオークションが広がらない理由は単純ではない。日本人の性格として公衆の目にさらされる形で高い買い物をしているところを見せたくない、という心理が働くとも言われる。また、美術品についていえば、日本の美術商業界があまり積極的ではなく、オークションに協力的ではないという話も聞く。

しかし、人に見られることが嫌ならば、電話による入札という手もある。また、業界が反対してもオークションは開けるわけだから、決定的な理由にはならないだろう。原因がどうであれ、このままではあまりにもったいない。

中国の人々がうらやましい

中国ではこのところ「海外回流」と呼ばれる美術品のジャンルが人気だ。かつて中国の戦乱や内戦、文化大革命などの混乱期に海外に流出した中国の文物が、今、中国の経済成長によって逆に中国に向かって「回流」しているという意味である。

実際、優れた中国美術品が大量に所有されている日本では、回流美術品を求める中国の業者が活発に買いあさっており、近年、日本からは膨大な量の美術品が中国に運ばれている。その場合、価値を決める主導権は中国側に握られており、本来はもっと高く評価されるべきものが十分に評価を受けることができないケースもあるだろう。

私のように美術品の芸術的価値よりもその来歴に関心がある者にとっては、日本に存在した経緯を誰も検証できないまま、中国に戻ってしまうことをたいへん残念に感じる。もし日本でオークションにかかれば、この品は中国に出したくないと考えたコレクターや企業、個人が購入することもできるだろう。少なくとも、その品がいつどんな形で日本に渡り、その間、誰の手を経て今日に至ったかという来歴が公開される。しかし、中国でオークションにかかってしまえば、「日本から戻ってきた品」の一言で片付けられてしまうことがほとんどで、買い取られた先もわからないことが多い。

日本にある中国美術品が中国に戻っていくことを惜しいと言っているのではない。中国文化の日本への伝来という意味で、文化史的に大きな意義を持っている品々だからこそ、最終的な行く末については、できるだけ透明化された形で世の中に知られるべきなのである。

加えて、美術品のオークションは人々が文化に接するうえで最上の勉強の機会になる。テレビ番組の「開運!なんでも鑑定団」で実感できるように、物に値が付けられ、その値が予想を超えても、下回っても、ある種の「興奮」を与えてくれることを私たちは知っている。ネットオークションとは質の異なる本物のオークション文化が日本に存在しないのは残念でならない。手軽にオークションを楽しめる中国の人々をうらやましく感じる。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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