「安倍トラ相場」は本当にやって来るのか 日本株と共和党政権の「相性」を検証する

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しかし、日本株については、日銀のETF買いでかなりゆがんでおり、過去のパターンから逸脱した動きになっている。そのため、今回が過去のパターン通りにさらに上値を追えるかについては、大いに疑問が残る。そのため、円安にならなければ、日本株は上値が重くなる可能性がむしろ高くなってしまうだろう。

金投資は日経平均のパフォーマンスを上回る

ちなみに、金価格も同様に1981年以降のデータで比較してみると、政権1年目は1.2%下落するものの、2年目は15.4%上昇、3年目は9.8%上昇、4年目は6.0%下落している。また、過去の4年間の平均的な推移でみれば、金投資のパフォーマンスは日経平均株価を凌駕している。

この点も非常に興味深いところである。過去のパターンに沿って推移するのであれば、2017年の金価格の押し目は、18年から19年に掛けての金市場の大相場に向けた絶好の仕込み時となろう。いずれにしても、新政権の本格的な動きは、トランプ次期大統領が正式に就任する2017年1月20日以降になる。過去のこれらの値動きのパターンを念頭に入れ、さらに政策の中身を確認したうえで、最終的な市場の方向性を確認したいところだ。

現時点で来年の話をするのはまだ早いのかもしれないが、2017年のリスクの一つに挙げられるのが、EUの混乱であろう。その前に今年の12月4日にはイタリアで憲法改正に関する国民投票がある。

また来年4月23日にはフランス大統領選挙の第1回投票が実施され、5月7日には決選投票が控えている。ドイツでも8月から10月の間に総選挙が実施される。ブレグジットにより英国がEUから離脱することになったが、ドイツとフランスの間を取り持つ英国が離脱したことで、EUはきわめて脆弱な組織体になっている。

不安定な中で、独仏の選挙がどのような結果になるのか、EUの今後の行方を占ううえでも重要なものになりそうだ。

また、ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領は、トランプ氏をきわめて辛辣な言葉で批判していたことも忘れてはならない。彼らの思惑と裏腹に、米国の次期大統領はトランプ氏が就任する。そのため、米国との関係についても、懸念が生じる可能性がある。

ブレグジット、トランプ旋風などに代表されるように、これまでの政治の考えや枠組みから飛び出して、自らの意見を投票という形で示す動きが今後、世界的にいっそう広がる可能性がある。一部の国にとどまるかもしれないが、EU加盟国で今EU離脱に関する国民投票をすれば、相当の確率で離脱を選択する可能性が高いとみられている国もある。「過度な懸念は必要ない」との声も聞かれるが、筆者はそうは思わない。

今年の米英で起きた動きが、新たな世界的な枠組みの再構築元年だったとすれば、来年以降の政治的・地政学的なリスクから目を離せない。経済や金融市場への影響についても、注意深く見ていくことが必要になりそうだ。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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