侍ジャパンを苦しめた日米「ボールの違い」 誰が制球できる投手で、打てる打者なのか

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問題の触感は、革の表面がしっとりしたミズノ社製に対し、ローリングス社製はツルツル。同じ牛革ながら、ミズノ社製はなめすときに油を入れて、しっとり感を出しているという。日本の技術である。

どちらが選手の体にやさしいか。明白である。ツルツルしたボールを滑らないように投げようとすれば、指に余計な力が入り、上腕部や肘に負担をかける。MLBでは肘の靱帯を断裂してトミー・ジョン手術(靱帯再建手術)を受ける投手が近年、激増。日本人大リーガーもたくさん肘にメスを入れた。

大塚晶則、田沢純一(レッドソックス)、松坂大輔(現ソフトバンク)、和田毅(同)、藤川球児(現阪神)、ダルビッシュ有(レンジャーズ)…。契約する際にメディカルチェックを受けていながら、向こうに行った途端に肘を壊すのである。ダルビッシュが「絶対に短い」と指摘して論議を呼んだ中4日の登板間隔も関係しているかもしれないが、最大の原因は滑るボールにあると思う。

打者にも影響するボールの違い

WBCでボールへの対応を求められるのは投手だけじゃない。MLB使用球は縫い目が高い分、縫い目指をかけて投げる変化球は曲がりやすい。つまりよく動く。しかもやや重い。十分に呼び込んで体の前で捕まえないと強い打球は飛ばせない。

今回の強化試合で最も苦労したのが4試合すべてで4番に座った中田翔(日本ハム)だ。11打数2安打3打点、打率1割8分3厘。ヒット2本はいずれもボテボテのタイムリーだった。「執念の一打」「意地の一打」と言えば聞こえがいいが、完全に打ち取られた打球だった。

昨年のプレミア12では5、6番で28打数12安打15打点、3本塁打、打率4割2分9厘と打ちまくった中田。打点王に輝き、大会ベストナインにも選ばれた。このプレミア12は前述のようにWBSC主催で、使用されたのはミズノ社製のNPB統一球。今回は日本シリーズの疲れもあったと思うが、MLB使用球の影響が少なくなかったと思う。

対照的に全試合安打、打点を記録して13打数4安打5打点、打率3割8厘と結果を残したのが筒香嘉智(DeNA)。昨年はプレミア12に出場した後、単身ドミニカ共和国のウインターリーグに参加した。速くて動くボールに対応するために打撃フォームをマイナーチェンジ。右足を高く上げていたのをすり足にするなど無駄な動きを極力省き、今季44本塁打、110打点で2冠の飛躍につなげた。

さらに右中間上段への一発、天井へ吸い込まれる仰天の一打を放つなど11打数5安打1打点、打率4割5分5厘をマークした大谷翔平(日本ハム)、オランダとの最終戦タイブレークで満塁弾を放つなど16打数5安打6打点、打率3割1分3厘の鈴木誠也(広島)らMLB使用球への対応力を示したのは、いずれもタイミングの取り方が小さく、ボールを引きつけて逆方向へ強い打球を打てる打者だ。

足を高く上げて大きくタイミングを取り、引っ張り中心の中田はどういう形で本番を迎えるか。「4番は右バッターの方がいい」という考えを持つ小久保裕紀監督が中田4番にこだわり続けるなら、より工夫が求められる。13打数1安打2打点、打率7分7厘に終わった山田哲人(ヤクルト)も心配だ。

WBCでは第3回まで優勝、優勝、ベスト4できている日本。今回「世界一奪還」を目指す侍ジャパンだが、ドジャースタジアムで行われる準決勝に駒を進めるかどうか。それすら楽観できない。

1次リーグはキューバ、オーストラリア、中国と同じB組。2次リーグでは韓国、台湾、オランダ、イスラエルの1次リーグA組上位2チームとぶつかることになる。ここまでは東京ドーム。地の利を生かして2次リーグ、なんとか2位までに入りたいところだ。

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