乳がんの記者が小林麻央さんに共感するワケ 「ステージ4」の現役新聞記者が語る

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残念ながら、今のところ「胸を切らずに治す」という治療法は一般的ではありません。とはいえ「乳房再建術」の進歩は、ひとつの希望といえるでしょう。かつては、お腹や背中の組織を移植する「自家組織」による再建のみが保険適用だったのが、近年、シリコンを使う 「インプラント」による再建も適用になり、より自分に合った方法が選べるようになりました。

もちろん、再建すれば全ての問題が解決するというわけではありません。外見も感覚も、完全には元に戻らないため、「性」の悩みなどを抱える人も少なくないようです。そして体の一部を失うのは乳がんだけではありません。咽頭がんなど、のどのがんでは「声」を失う可能性があります。大腸がんでは人工肛門(ストーマ)となる場合もあります。

がんと向き合うということ

『乳がんと生きる ステージ4記者の「現場」』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

人は、ある日突然、がん患者になります。治療や暮らし、将来のこと。さまざまな場面で価値観や人生観が問われます。「自分にとって大切なものが何か」。それを教えてくれるのが、がんという病気なのかもしれません。

「乳がんステージ4」の5年生存率は33パーセント程度(2001年から05年に診断された症例)で、他のがんに較べて進行が遅く、抗がん剤も効きやすいと言われています。とはいえ初期で治療を終えても、10年以上経ってから転移再発する場合があります。

ステージ4患者の私は今、胸とリンパ節からは画像上、がんが見えない状態です。でも、骨にはまだ腫瘍が残り、いつ肺や肝臓に転移しても不思議ではありません。あとどのくらい生きられるのか。それは神のみぞ知る、です。

ひとつ言えるのは、残りの命の長さがどうであれ、その時間を大事にできるかどうかは本人次第ということです。まず必要なのは、誤った情報に惑わされず、医師と良い関係を保ちつつ、適切な治療を受けること。

そのうえで「最善を期して最悪に備える」のがより良い道でしょう。言葉で言うのは簡単ですが、もちろん厳しく、険しい道のりです。

それでも、生き生きと日々を重ねるがん患者はたくさんいます。私がお会いした中には、がんの中でも難治と言われるすい臓がんステージ4で、取材後ほどなく亡くなった女性がいます。「週末は、ひとりでバスツアーに行くの」。お会いした時、楽しそうにそう話してくれました。どれほどの葛藤を経たうえでの笑顔だったのだろう。同じ患者の私にも想像できません。

でも言葉の端々に、最後まで自分らしく生きようという強い意志が感じられました。小林麻央さんのブログからも、自らの病から目をそらさず、これからの時間をより輝かせたいという気持ちが痛いほど伝わってきます。

最後まで悔いなく生きるには。その問いは、がん患者はもちろん、全ての人に投げかけられています。

三輪晴美(みわ はるみ)/1964年大阪府生まれ。1989年毎日新聞社に入社し、事業部に所属。1992年から出版局に勤務し雑誌や書籍の編集に携わる。2008年11月乳がんが見つかり、治療のために休職。2009年11月職場復帰。以後、2016年現在も治療を継続中。2014年4月から生活報道部記者。

 

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