「自分勝手な市場関係者」と「織り込み済みの幻想」
ズレの第一の要因は、金融市場に埋没しすぎて、自分勝手になっていることである。これは変な表現だが、市場関係者は自ら認識していないことが多い。つまり、中央銀行の金融政策のケースで言えば、資産市場への配慮はゼロではないが、二次的なものであって、金融政策はあくまで実体経済の状況に対応したものである。そして、バーナンキ議長と言えども(彼は金融緩和が大好きと言う意味で、投資家寄りのスタンスである)、資産市場は二の次なのである。
金融緩和が好きで、欧州中央銀行の人々に言わせれば、バーナンキ議長は緩和しすぎ、ハト派ということになるのだが、そうであったとしても、彼は、金融緩和が好きなだけで、それを資産市場のためにやっているわけではない。あくまで、実体経済、失業率を念頭において、物価上昇が起きなければ、出来る限り金融緩和を続けたい、というだけのことであって、資産市場のことは考慮していない。逆に言えば、資産市場のことを考えていないから、量的緩和で資産バブルが多少起きても気にしないのであって、資産バブルを好んでいるのではない。
しかし、これが市場関係者、投資家たちには見えていない。自分たちと同じように、資産価格を上げるために、株価を上げるために、金融政策を行ってくれていると思ってしまうのである。だから、「最近の株式市場は荒れているから、ここで金融引き締めを想起させるようなことを言うわけがない」というような予想をする。しかし、その予想は単なる期待、願望である。そして、真の問題は、それが願望であることに気づかなくなるほど、資産市場の都合で世の中は動いていると思い込んでしまっていることだ。
ズレの第二の要因は、情報を誤ってとらえていると言うことだ。現在の株価は、量的緩和縮小の見通しをある程度織り込んで形成されているはず、そうあるべきなのであるが、実際には、そうではない、ということだ。
よく織り込み済み、という表現が株価や為替などについて言われるが、あれは嘘だと言うことだ。例えば、株価が暴落し、下落が継続するような場面のときを考えてみよう。実体経済がどんどん悪くなっていくような状況である。この場合は、経済指標は悪いものが出てくる。それも次々に出てくる。この場合、株価は、悪い指標が出てくるたびごとに暴落をする。生産の指数が悪くて暴落、消費者信頼感指数が悪化して暴落、雇用の数値が悪くて暴落、と言う風に暴落が続く。しかし、これらの指標は、実体経済が悪くなっている、需要が急減しているという状況を、生産、所得、雇用、という別々の面から見ているだけのことで、表しているもともとの現象はたった一つだ。
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