2強以外の動画サービスは、灰燼と化した FacebookとYoutubeにはかなわない
おそらくそのようなデジタルパブリッシャーは、制作コストが比較的安いFacebook向け動画に感化されているのだろう。たとえば、リトル・シングスなどは、作り込んだFacebook向け動画の制作費は大半が1本あたり5000〜1万ドルの範囲だとしている。しかし、Facebook動画はそれよりずっと安い制作費が大半なのだ。これは、パブリッシャーが社内にチームとスタジオを作り、短編の動画を日々、短時間で大量生産するためだ。
「社内で作るものの方が簡単に制作できるのは、我々が知り尽くしているからだ」と、リトル・シングスの編集長、マイア・マッキャン氏は言い、「ロケに行ったり、俳優を起用したり、セットの制作、ヘアメイク、メイクなどが必要になったりすると、その分だけ費用が高くなる」と指摘した。
これに対しテレビは、あるベテランのテレビ番組プロデューサーによると、台本のない30分番組のシリーズで1エピソードあたり平均15万ドル、台本のある30分番組だと50万ドル擁するという(これはあくまでテレビ番組全体のおおまかな平均であり、最近ではHBOやNetflixでも、有名な番組だと1シーズンで1億ドル以上擁するものもある)。
このプロデューサーは、「テレビも、うまく行かない番組がたくさんあるので、リスクは理解している。それでも、うまく行けば大金が入る。デジタルの制作会社の大半には、このような胆力が見られない」と語った。
ベライゾン、コムキャスト、スポティファイが(ウェブ動画に)それなりのおカネを出す姿勢を見せていること自体は良い兆候なのだ。
膨張と収縮を繰り返すバブル夢物語
しかし、おカネだけでは駄目なのは、AOLや米ヤフーに聞けばわかる。この2社も質の高いオリジナルの短編番組に莫大な予算を投じたが、数年であきらめることになった。
広告枠販売イベント「デジタルコンテンツ・ニューフロント」の最初の3年間、AOLと米ヤフーは、ハリウッドの一流の人材を起用したオリジナルの短編番組を大量に発表した。
また、両社はウェブのシリーズ物に大金を投じた。AOLの元幹部によると、当時AOLのオリジナルものは平均すると1番組あたり100万ドルを切るくらいだったという。また複数の情報筋によると、米ヤフーは2013年当時、エド・ヘルムズ、ジリアン・ジェイコブス、ザッカリー・リーバイらを起用した短編のコメディ番組「タイニー・コマンド」の制作に、90万ドル近くを使っていたそうだ。
複数の情報筋によると、米ヤフーが2012年のニューフロントで発表した番組のうち、広告によって採算がとれたのは、ABCのテレビ番組「バチェラー」のパロディ番組で、最初のシーズンに視聴者数が1100万人に到達した「バーニング・ラブ」だけだった。またAOL元幹部によると、AOLが最初の3年のニューフロントで発表した全50番組のうち、制作費を回収できたのは約20%だったという。「出品した番組全体でも、おそらくマイナスだった」と、この幹部は言う。
複数の情報筋によると、両社の取り組みには、広告売上だけを追求して番組を制作していたという問題点があるらしい。前出のAOL元幹部は、「AOLはブランドからおカネが入るプレミアム動画が欲しかったし、それは米ヤフーも同じだった。プレミアム動画の広告需要と、消費者の動画需要とが必ずしも相関していないのが問題のひとつだ」と語る。