「2度目の離婚で精神まで壊してしまって、もう私は終わりって。どうして自分には普通の幸せがないのか、ツライことばかりなのか、そんな悲観ばかりです。最後の最後に頼った母親は、やっぱり実の子供より、女として男を選択する人でした。自分の子供を守れるのは、自分だけじゃないですか。けど、母はそれがいっさいない。自分が親になってわかったことだけど、母は親になる資格がない人です」
3年前。本当に追い詰められて前夫から逃げ、母子支援施設に保護されたとき、かすかな希望を持って母親と義父の家に行く。助けてほしかった。ずっと自分の胸にしまっていたが、母親と義父が駆け落ちした25年前、実の父親から凄惨な虐待にさらされた事実を話した。
「私は“小学校のとき、あれから何があったか知っている? ”ってすさまじかった父親の虐待を話して、それから義父に“人殺し”と言われたことがつらかったことも伝えた。私も大人なので冷静に話した。義父は“そんなこと言ってない”って怒鳴りだして、母親は“虐待されたなんて、どうしてウソつくの”って。実の父親がそんなことするわけないって。だからもういまだに義父にはウソつきバカ女って呼ばれています。だから私には、どんなに苦しくても助けてくれる家族はいない」
ファミレスの片隅の席。夕食時に家族連れでにぎわう中、三井さんは話しながら泣いてしまった。
年収200万円以上もらえる仕事はない
母子支援施設を出て働いた非正規店長職でパワハラに遭い、適応障害を患った。もう、どうしても働けないと福祉事務所に相談に行き、ケースワーカーから何度も「実の母親の家に戻れないのか」と迫られた。何度も何度も破綻した関係を説明して、1年半前にようやく生活保護が下りる。
迷惑をかけてはいけない。なんとか働かなくてはと仕事を探したが、やはり最低賃金に張りついた仕事しか見つからなかった。同居する次男に謝りながら朝から晩までダブルワークして、やっと生活保護費から2万円程度アップした賃金を稼ぐ。生涯、こんなギリギリの暮らしをしなくてはならないのか、未来のことを考えるとため息しか出てこない。
日本は103万円の配偶者控除の制度が象徴しているように、女性は世帯主の補助的な役割という社会である。そのレールから外れたシングルマザーは正規職に就くのが困難である。そのような苦境に陥る女性は、近年激増している。さらに三井さんは実の父親や前夫による暴力から逃げているので、地域の縁もない。何もない、希望は何ひとつ見えない。
「次男と暮らせて幸せではあるけど、孤独感はすごくある。だって私、息子たちがお嫁さんをもらったら、孤独死確実ですよね。もう結婚はしたくないし、したくてもバツ2の自分にパートナーなんて見つかるはずがないでしょ。だから、孤独死は確実。結局、息子たちは巣立っていく、次男と一緒に暮らせるのは今だけで、独り暮らしになるのは間違いない。頼る家族も兄弟もいない。おカネがあれば、少しは希望があるかもしれないけど、一応、子育てを頑張った女に、年収200万円以上を払ってくれる仕事なんてないですから」
家族、配偶者に恵まれなかった三井さんの心の拠り所は、一緒に暮らしている次男の存在だけだ。その小さな拠り所も、次男が社会に出るあと数年で終わる。いくら頑張って働いても、稼いだおカネは家賃と最低限の生活費で消えていく。ユニクロの洋服程度を買う余裕もない。
「私個人は、もう何も希望はない。昔のように自殺願望みたいな症状がまた出てくるのが怖い。死にたくはないけど、生きたくもないみたいな。憂鬱はいくら悩んでも晴れません」
三井さんはそう言って、話は終わった。2時間半しゃべり続けた。最後、涙はなかったが、彼女は一度も笑顔を見せることはなかった。
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