「たぶん愛情がおかしな方向に向いたのかな。マインドコントロールです。毎日“お前はダメな人間だ”“お前は無能な驕った人間だ”“お前の考えはおかしい”みたいなことを365日、何年間も言われ続けていると、自分が悪いからって思い込む。強く責められると頭が真っ白になって、何も考えられない。我慢してもカラダがおかしくなるんです。過呼吸になって“ごめんなさい、ごめんなさい”ってなったり、呼吸が苦しくなっても“演技だろ”でさらにののしられる。お医者さんからはパニック障害と診断された」
過呼吸など体調がおかしくなったのは、結婚3年目あたりから。自分が悪いと自分を責めながら我慢を続け、心療内科に駆け込んだのは7年目だった。
「ずっと自分が悪いと思い込んでいたけど、今はインターネットで調べれば、精神疾患もモラルハラスメントも知ることができる。7年間経って、やっと夫が異常だということに気づいた。たぶん、そういう情報がない時代だったら一生気づかなかった。我慢を続けて、頭とカラダがおかしくなって死んじゃったんじゃないですか。そう考えると恐ろしいし、実際に気づかないで自分を責めて生きている女性は何万人もいると思う」
3年前、パート先の職場で知り合った同僚に相談し、警察に駆け込んだ。母子生活支援施設に保護されて、弁護士を介して離婚を申し出た。前夫は血眼になって三井さんを探した。もめにもめて、慰謝料なしの協議離婚を前夫は渋々受け入れた。
「最後のほうは“殺す”って包丁を持って暴れるみたいな状態でした。たまにニュースで逮捕された犯人がみせる殺人者の目、殺されるかもという恐怖が逃げる最終手段の後押しをしてくれた。だから、今でも前の旦那が家に来るんじゃないかって恐怖心がある。当時、暮らしたのは県内の全然違う場所で、何十キロかは離れています。でも、怖い。弁護士の先生に他人が戸籍や住民票を閲覧できないように手続きはしてもらいました」
昨年の秋にようやく離婚が成立。施設から出て遠く離れた土地でゼロからの出発、二度と会わないための手は尽くしたが、今でも前夫の顔や声を思い出して動悸が止まらなくなることがある。
前夫から逃げて、シングルマザーになった。自分が大黒柱である。どこで働いても年収200万円に届かない。ギリギリの生活の中で、自殺願望のような憂鬱は消えることはなかった。次男のために頑張らなくてはいけないと、心に誓ったのは最近のことだ。
実の父親からのすさまじい虐待
三井さんは「家族とは無縁」という。長年の精神的な虐待に限界を超えるまで苦しみ続け、前夫から逃げても隣県に暮らす親は何も助けてくれなかった。いったい、どういうことか。家族のことを尋ねると、さらに表情が歪み、涙目になった。
「実は私、父にとんでもない虐待をされていたんです。どこから話せばいいかな、小学校4年だか5年のとき、母親が今の義父と駆け落ちした。私を置いて。それから父親からのすさまじい虐待が始まって、今になっても現実を受け入れられないので、とても全部は話せません。30年間くらい経っても引きづっている状態で、精神的におかしいのは前の夫のことだけではなくて、積もり積もってなんです」
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