なぜあの人は未来をピタリと言い当てるのか 「超予測者」は思考法が異なっている
まず、彼らの身分は大学教授から金融コンサルタント、そして芸術家に退職者まで、バラエティ豊かだ。また、彼らは概して聡明で、数字に強い。
ただ、ずば抜けた知能や数学的才能は超予測にとって必要でもなければ十分でもない。むしろすぐれた予測力にとってことさら重要なのは、物事の考え方、すなわち思考法であるという。
ならば、超予測者はどのように物事を考えているのだろう。ポイントはいくつかあるが、ここでは実際の予測問題を例にとりながら、そのうちのひとつを詳しく見てみよう。
アラファトの遺体からポロニウムは検出されるか
2004年、パレスチナ解放機構(PLO)の議長だったヤセル・アラファトは、激しい嘔吐と腹痛に襲われ、その1カ月後に他界した。死因は不明だったが、毒殺の疑いが当初から浮上していた。それから8年後、アラファトの遺品が調べられ、不自然なまでに高濃度の「ポロニウム210」が検出される。ポロニウム210といえば、元ロシア諜報員アレクサンドル・リトヴィネンコ暗殺の際に用いられた放射性物質だ。
そこで、アラファトの遺体を掘り起こし、スイスとフランスのふたつの機関が遺体を検査することになった。そして、その時期に予測コンテストの問題として出題されたのが、「アラファトの遺体から通常より高濃度のポロニウムが検出されるか」であった。
さて、当時あなたがこの予測問題を課されたとしたら、どう考えるだろうか。パレスチナとイスラエルの積年の対立や、それに伴う事件の数々を知っていれば、「イスラエルがアラファトに毒を盛ったにちがいない」(あるいは反対に「イスラエルは絶対にそんなことはしない」)と考えるかもしれない。だがテトロックによれば、超予測者であればそのような判断はまずしないという。
そもそも、問題は「アラファトの遺体から高濃度のポロニウムが検出されるか」であって、「アラファトはイスラエルに暗殺されたか」ではない。実際、アラファトの遺体からポロニウムが検出される原因としては、イスラエルによる毒殺以外にも次のような事態を考えることができる。すなわち、「パレスチナ内の敵対勢力がアラファトに毒を盛った」という事態や、「毒殺のごとく見せかけるために遺体をポロニウムで汚染した」といった事態である。
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