なぜあの人は未来をピタリと言い当てるのか 「超予測者」は思考法が異なっている
また逆に、かりにイスラエルがアラファトを毒殺していたとしても、その遺体からポロニウムが検出されるかどうかは必ずしも明らかではない。現にポロニウムは減衰が早い。しからば、アラファトが毒殺されたのだとして、その8年後の遺体からきちんとポロニウムが検出されうるのかどうかをまず調べなければならないだろう。
というわけで、先のようにすぐさま判断を下すことはやはり早計だといえる。対照的に、超予測者はいろいろな可能性をも考慮に入れながら慎重に判断を下していく。そして、そこでとくに重要なのが、いままさに見たように、問題をいくつかの条件に分解し、そのうちの知りうる事柄にまず当たってみようとすることである。そうした「問題の分解」が、超予測者の思考法の特徴のひとつというわけだ。
行動経済学の知見も採り入れた魅力的な研究
彼らの思考法の特徴はそれだけではない。テトロックによれば、超予測者にはほかにも、「まずは外側の視点から」「積極的柔軟性」「確率論的思考」「慎重な更新」などの特徴的な思考法が認められる。そして、ある超予測者は現にそれらの思考法を駆使しながら、「アラファトの遺体からポロニウムは検出されるか」という先の難問にもうまく答えを見出していく。
それぞれの思考法がどういうものであるか、また、卓越した超予測者がいかに難問に答えていくかという点は、いずれも興味深いだけでなく、実践上参考にもなるので、それらについてはぜひ本書自身に当たってほしい。
ところで、「超予測者」という呼称や、「不確実な時代の先を読む10カ条」という副題を一見すると、そこにある種の疑わしさを感じてしまう人もいるかもしれない。
ただ、ここではっきりさせておくと、本書の内容は徹底して科学的である。実際、本書の前半では、「予測をどう科学的に扱うか」「予測のよしあしを客観的に評価するにはどうしたらよいのか」という点に関して、じつに丹念な考察が重ねられている。そのように、本書『超予測力:不確実な時代の先を読む10カ条』は根拠薄弱な啓発書の類いとは明確に一線を画すものなので、サイエンス好きの読者も安心して手を伸ばしてほしいと思う。
本書を「『ファスト&スロー』以来最良の解説書」と評する人もいるようだ。わたし個人としては、『ファスト&スロー』と並び称することには正直賛同できない。だがそれでも、テトロックが行動経済学の知見などをも採り入れながら、ダニエル・カーネマンらの衣鉢を継ぐようなすばらしい研究を展開していることには、疑問の余地はないと思う。『ファスト&スロー』をバイブルとしている読者であれば、おそらく本書も存分に楽しめるのではないか。
日々の仕事で、「この商品は1年間でどれほど売れるのか」と頭を悩ましている人も少なくないだろう。わたしもそうした人のひとりである。本書『超予測力:不確実な時代の先を読む10カ条』で得た知識を本当に実践に活かすことができたとしたら、それこそ最高にすばらしいことにちがいないのだけれど。
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