ドゥテルテ大統領の真意を確かめるため、フィリピンを訪問した米国のラッセル国務次官補も、「フィリピンと米国の関係は変わらないと見ることができる」と発言した。ならば、中国での発言は何だったのか、と言いたくなる。が、同大統領はこれまでそういうスタイルを通して、国民から喝さいを浴びているのであり、こちらとしてもかなりの幅をもって見ていく必要があろう。
南シナ海の問題については、ドゥテルテ大統領は中国の習近平国家主席と、話し合いで解決を図ることに合意した。我が国などでは国際仲裁裁判所の判決の扱いに強い関心があるためか、両首脳は判決を「棚上げ」したとも言われているが、そのような事実はない。同大統領は訪中をぶち壊さないため、それを持ち出さなかっただけだ。
仲裁判決は、両国の首脳会談では表に出なかったが、フィリピンにとって極めて価値の高いものである。
中国の領有権主張に根拠なし
まず今回の仲裁判決は、国連海洋法条約(UNCLOS)の解釈によって、中国の主張と行動は「違法」と判断した。いわゆる中国の「九段線」主張についても、UNCLOSに違反していることはすべて違法だと断定した。
さらに判決は、領有権に関する中国の主張も、根拠がないことを「示唆」した。なぜ示唆かといえば、仲裁裁判所に領有権問題をさばく権限がないからだ。具体的には、判決は管轄についての原則を尊重する姿勢を見せながらも、「裁判所がスプラトリー諸島やスカボロー諸島に関する主権の問題を扱う権限があるならば、非常に興味深い証拠が諸方面から集まっている」と述べている(判決パラ264)。
この部分だけでははっきりしないかもしれないが、前後と合わせて読むと、中国の領有権主張も根拠がないという考えが示されている。要するに、判決は領有権については権限がないことを自認しつつ、実際には少し踏み出して、中国の主張が領有権問題に関しても根拠のないことをやんわりと言ったのだ。
判決の言う「非常に興味深い証拠」とは何か。具体的に示していないので推測にならざるを得ないが、大きく言って、2種類の証拠は間違いなく参照しただろう。
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