なぜインベスト・ジャパン政策は不発なのか 鎖国レベルを脱せないただ一つの理由
このような状況下でも、インベスト・ジャパンの実行を担う内閣府とJETROが発表している政策パッケージをみると、その対象はほぼ「グリーンフィールド投資」(企業が一から事業を立ち上げる投資)に限られています。すなわち、本気でインバウンド投資を増やしたいならば、もうひとつの柱であるインバウンドM&Aは避けて通れないのに、それをほとんどサポートする気があるように見えない内容なのです。
念のために少し解説を加えると、直接投資は「グリーンフィールド投資」と「インバウンドM&A」の両輪からなります。外国企業にとって、日本のような成熟国においてグリーンフィールド投資を行うことは、メリットが多いとは言えません。コストが高いですし、就業機会が豊富にあるので優秀な人材確保が難しいし、そもそも市場の伸びがありません。グリーンフィールド投資は、コストが安くて、優秀な人材でも就業機会が少なく、市場が伸びている新興国で行うのが当たり前です。
下図にあるように、新興国から先進国への直接投資はほぼインバウンドM&Aによるものです。この状況下で、日本政府がいくらグリーンフィールド投資促進の旗を振ったところで、効果はたかが知れているでしょう。ですから、インバウンドM&Aの活況なしに、インベスト・ジャパン政策の成功なしといえるのです。
政府は何を期待しているのか
そもそも、政府はインベスト・ジャパンから、何を期待しているのでしょうか。人口縮小していく日本において、優秀な人材を外国から呼び込み、経済を成長させたいということだと思います。特に、政策パッケージには、地方への投資も呼び掛けており、地方に資金、人材、経営資源が流入することをも期待しているのだと思います。にもかかわらず、グリーンフィールド投資ばかりを促進しようとするのは、日本経済の成熟度という現実から目をそらしているとしか言いようがありません。
ここで、政府から冷遇されている(?)、インバウンドM&Aの成功例を1つ挙げたいと思います。私は2002年から2006年において、GEヘルスケアという外資系事業会社でアジアへのM&A投資を担当していました。ところが、この期間において私が手掛けた唯一の成功例は中国でのものでした。日本では取締役会がM&Aに対して、株主としての判断をせず、うまくいかなかったのです。
一方、中国ではM&Aの話はいつでも歓迎され、私の仕事の比率もいつしか日本8割から、中国8割に代わっていきました。いわゆるジャパンパッシングです。このときに実行されたユアンデという中国の医療機器製造企業への投資は、GEヘルスケア、ユアンデ、ひいては中国経済に多大なメリットをもたらしたのです。
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