なぜインベスト・ジャパン政策は不発なのか 鎖国レベルを脱せないただ一つの理由

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2004年4月にGEヘルスケアがユアンデの株を一部買収し、経営に参画しました。GEヘルスケアの医療診断機器とユアンデの医療治療機器を組み合わせて、中国全土に展開しました。

はたして、GEヘルスケアとユアンデの強みが相乗効果(シナジー)を発揮し、この事業は大成功しました。GEヘルスケアの投資からわずか1年4カ月後の2005年8月に米国NASDAQにユアンデから名前を変えて「チャイナメディカル」として上場し、2006年にはEBITDAが3倍となり、GEヘルスケアの持分の価値は20倍以上になりました。

GEヘルスケアは事業シナジーと技術開発目標が達成できたため、市場で売却を行いました。結局創業者は、一時的にGEヘルスケアに経営を一部譲った形ですが、最終的には、技術、販路、売り上げ、利益、経営基盤、ブランディング、資金調達、上場まで、GEヘルスケアのノウハウと、経営資源を利用したうえ、最終的には上場企業として、経営権まで取り戻しました。中国側に流入した経営資源、医療現場への貢献、人材の育成等、そのインパクトは非常に大きなものだったといえます。

私としては、日本においてこのようなインバウンドM&Aの成功例を作りたいと思っていたのに、それはGEヘルスケアではかないませんでした。その後、転職したペルミラという欧州系最大の企業投資ファンドにおいて、その望みはかなえられることになります。

M&Aを歓迎する環境を整えなければいけない

『日本買い 外資系M&Aの真実』にはインバウンドM&Aの現場やメリットについて実績に基づいたノウハウがまとめられている(上の書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

在日米国商工会議所も、2015年の政策提言書の中で言っています。「もっとM&Aを歓迎する環境を整えなければ、新たなより高水準の直接投資と、それに伴うイノベーションや付随するアイデアは、日本を引続き迂回する見通しである。日本の外向けM&A活動と日本に対する内向け(=インバウンド、筆者注記)M&A活動の間にある大きな溝を埋めることを促進するのは、新たな、それに特化した対策を実施することであり、あるいは、日本企業やその株主の間で、日本企業を外国企業が合併買収することが、対日投資をする外国企業だけではなく、投資される日本企業あるいはその株主自身にとっても価値を提案する戦略機会であるとの認識をもつことである」。

インベスト・ジャパンを成功させれば、ビジット・ジャパン以上のインパクトを日本にもたらします。そのために、政府がすべきいちばん重要なことは、グリーンフィールド投資よりもインバウンドM&A投資を促進することです。インバウンドM&Aを促進するための施策は、企業統治改革と税制改革が肝となります。内閣府、JETROの政策パッケージにある、広報、提携支援、法令の英語化等もありがたいですが、外国企業は日本企業(市場ではない)の魅力を十分に知っていますし、実際に買収案件が動けば、日本語の環境など物ともしません。これは、多くの外資系ファンドが厳しい環境下でも買収意欲を失わないことからもわかると思います。

インベスト・ジャパン政策は、人口減少の日本経済を救うことができる、将来を見据えた政策です。ぜひ、政府が強いリーダーシップで、インベスト・ジャパン政策の成功のために真に必要な改革を実現してほしいと思います。

加藤 有治 GLIN Impact Capital パートナー

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かとう ゆうじ / Yuji Kato

1966年島根県松江市生まれ、岐阜県育ち。1988年京都大学理学部卒業、1990年経済学部卒業。1990年郵政省(現総務省)入省、経済協力開発機構(OECD、パリ)、モルガンスタンレー、メリルリンチ(ロンドン)、GE Healthcare事業開発アジア統括MD、Permira Advisers 日本オフィス代表、クールジャパン機構専務取締役、COO兼CIOを歴任。2014年以降、独立系投資会社のイースト・インベストメント・キャピタル(EIC)パートナー、2021年よりESGインパクト投資に特化したGLIN Impact Capitalのパートナー現任。イェール大学経営学修士(MBA、フルブライトスカラー)。著書に『日本買い 外資系M&Aの真実』(第11回M&AフォーラムRECOF奨励賞受賞)

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