その結果、今後は「働くための街」、「住むための街」という区別がなくなっていくでしょう。現に、アメリカのマンハッタンはこの区別がない街です。
都心に住む人が増えていった場合、人口が減っていく郊外に未来はあるのでしょうか。私は、ベッドタウンの印象が強い「郊外」という呼称はもうやめて、個性を持った「地方」として見ていくべきだと思います。
西武線沿線は、「週末リゾート」に向いている
郊外が個性ある地方として再生するために必要な条件は、以下の3つです。1つ目は、「ワーカブル」な街になることです。楽天が二子玉川に本社を移したように、大きな企業を誘致する。あるいは、在宅勤務に向いている街にすることです。
2つ目は、退職後の人たちが住む、「リタイアメント・サバーブ」化することです。ただ、これからは退職しても完全に働くことをやめるのは難しいから、在宅勤務がしやすい環境であることが条件です。そして、おしゃれな買い物スポットがあればなお良い。吉祥寺のようにね。必要なものはアマゾンで買えるので、大型店は必要ありませんが、小さくて個性的なお店があるとよいでしょう。そして、仕事で煮詰まったときなどに散歩して楽しい環境があることです。
そして3つ目は、「週末リゾート」として売り出すことです。平日は都心で働いて、会社の近くの家に帰る人たちが、週末だけはその街に出て、別宅でゆっくり過ごす。緑が多い、水辺がある、などの要素を持った街は、これに適しています。西武線の沿線などは比較的これに向いているといえます。もちろん、普段は在宅勤務で、週に数回都心の会社に出ればいい、という働き方の人の場合は、ここに本宅を構えても問題はありません。
退職後の人や在宅勤務をする若い世代が混ざり合って住んでいたら、お喋りもはずむでしょう。歩いて楽しい「ウォーカブル」と、働いて楽しい「ワーカブル」、この2つが重要な条件です。
私は、2012年に出した『第四の消費』という本の中で、リーマン・ショック後からは、個人がモノの所有にこだわらない、シェアの消費である「第四の消費」に移り変わっていることを書きました。そして、第四の次にあたる、第五の消費とは何かというと、それは「場所」をどうするのか、ということなのですね。どんな住まいに、そしてどんな街に住むのかは、消費を考える上で、残されたテーマです。
前回、日本のファッションは80年代の個性の時代を経て、現在はシンプル化していることを書きました(「毎日同じ服はおしゃれ」が招く百貨店不況」)。ただ、住まいに関してはまだ遅れていて、ファッションに置き換えると80年代前の状況、つまり個性の時代が到来していないのです。ようやく、古い家を買って自分好みにリノベーションするのがおしゃれ、という風潮は出てきましたが、それはまだクリエイティブな人に限った動き。これからは、どんな街のどんな家に住み、どこで余暇を過ごすのか、ということで個性を出して行く時代になっていくでしょう。
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