JR東海の攻勢をかわした「名鉄」の復活劇 赤字線の廃止と独占路線のテコ入れがカギ

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一方の豊橋口では、名鉄名古屋本線が上り線、JR東海の飯田線が下り線を担当することで複線を構成しているため、やはりダイヤの制約を受ける。名鉄が豊橋に延伸する際の豊川鉄道(飯田線の前身)との駆け引きと、太平洋戦争による豊川鉄道の国有化が原因なのだが、並行する東海道本線は複線を有している。

つまり、名鉄にとって稼ぎ頭の名古屋本線は、両端ともにJR東海によって制限を受けてしまっているのだ。さらに、国鉄末期に導入された特定区間運賃制度により、国鉄は平行する私鉄と同じ運賃を適用する区間ができた。名鉄沿線では、名古屋本線沿いの主要駅間にこぞってこの制度が適用されていた。例えば、名古屋~岐阜間は、名鉄・JR東海ともに大人普通運賃は片道430円だった。

それでも、JR東海発足時の東海道本線は、国鉄時代のダイヤを引き継いだため朝7時台でも岐阜発の上り列車はすべて各駅停車で1時間7本、所要29分であった。当時、名鉄も同じく7本だったが、うち1本は座席指定席特急で所要28分、急行では所要38分であるものの、ほかに新一宮発の準急が2本あり、運行頻度と名古屋市営地下鉄東山線との乗換の便利さで、優位に立っていた。

競合しない路線に重点シフトへ

しかし、JR東海は1989年に新型車311系を投入、その後さらに313系を大量投入し、いまでは岐阜発の午前7時台は1時間に15本、うち1本が定員制ホームライナーとなっている。所要時間も新快速で最速22分、運賃470円と、名鉄の1時間8本、最速29分、運賃550円に比べて優位に立っている。尾張一宮~名古屋間にいたってはさらに顕著で、JRが所要時間12分で300円なのに対して、名鉄は17分370円と、大きく差がついている。

この結果、バブル崩壊に続くJR東海による攻勢で、名鉄の鉄道事業は大ピンチを迎えることとなった。

東海道新幹線で稼ぎ出した利益を、新幹線投資の合間をみて在来線投資に振り向けるJR東海に対して、名鉄はその資金力で対抗することは難しい。なにせJR東海は、JRグループ旅客6社で唯一、国鉄時代の車両を一掃し、2016年度からはJRになってから新製した車両だけにしてしまったほどだ(JR東海発足の5カ月前に新製した211系電車8両を除く)。

そこで、21世紀になってから名鉄は、従来の名古屋本線で稼いでいくビジネスモデルを転換し、JR東海と競合しない常滑線と犬山線で稼ぐ形に持っていく。

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