米国留学生の3分の1が中国人である理由 「わが子にメッキをしたい」親世代の思い
もうひとつの現実的な問題は、就職に関する困難だ。この困難には2種類ある。まずよい会社に入る「困難」と、よい出世コースに乗る「困難」とだ。特に後者については、エリートとして採用されないと、昇進も遅く、転職にも不利で給料がなかなか上がらない。昔は「洋学生」が珍しかったので、留学経験がある人をエリートとして優先的に採用するケースがあったので、よい会社のエリートコースに乗ろうとして、留学をする人が増え続けた。
その結果、留学経験だけでは物足りなくなり、名門大学のランクや現地での勤務経験など、求められる条件がどんどん高くなっているのが現状だ。つまり、エリートがよい就職先を見つけるスタートラインに立つ最低限の条件として、留学が必要となっているのだ。
海外に定住する中国人留学生の実態
帰国後に国内競争の「勝ち組」になろうとして、留学ブームが続いているという話を続けてきた。が、実は卒業しても中国に戻らず海外にいる中国人留学生は、全体の2割もいる。なぜ帰国しないのだろうか。
現在、訪れている3回目の留学ブームでは、経済条件などによって教育機会を失い、海外との接触も少なかった親世代が、自分ができなかったことを子供に体験させようと人生を捧げている。さらに親世代の一部は、子供が「メッキ」されて帰ってくること自体を目的とはしていない。彼らには、「もっと良い環境で自分よりすてきな生活をしてほしい」という、強い親心があるのだ。つまり、自分はPM2.5を吸う生活でも稼げるのであればかまわないし、数十年も国産の食品を食べているので今さら安全はそれほど気にならない。兄弟が多いから親の介護もなんとかできる、というわけだ。
だが、せめて自分の子供には、視野をもっと広げ、もっと良い暮らしをしてほしい。きれいな空気を吸い、安全な食品を食べ、そして、孫を生んで安定した社会制度(出産支援、医療条件、教育資源、年金制度、介護保険など)に恵まれた生活を送ってほしい。そして、ぜいたくな思いかもしれないが、もし可能であれば、将来、子供と一緒に暮らしたいと心ひそかに願っている。
将来に不安を感じる親たちは、これからも国内でこつこつ貯金するよりは、蓄積してきた資産を今のうちにと子供と一緒に海外へ移す。資産を海外の不動産に換えれば、子供の生活はとりあえず安定する。
米国で会った50代の中国人夫婦。中国大都市の不動産を1戸売り出し、そのおカネを、米国で息子夫婦の永住権と郊外の一戸建て住宅に換えた。英語も運転もできないが、米国生まれの孫の世話のために、夫婦は思い切って渡米したのだ。
2人は英語で住所・名前・連絡先を書いたカードをつねに胸にぶら下げ、いつも手をつないで行動する。仕事で疲れた息子夫婦に迷惑をかけたくないので、家の前のスーパーと近くの公園以外には、一歩も外に出ないようにしている。「この間やっと同年代の中国人とスーパーで会って久しぶりに外の人としゃべったよ」と満足げな表情を見せた。
「中国に戻ったらもっと楽しいんじゃない?」と聞いたが、「いいの。今私たちは子供に必要とされているし、子供の役に立てればこれでいいの。彼らの幸せで十分」と言う。青い空ときれいな空気、かわいい孫と安定した生活の息子夫婦。円満な暮らしに見えるが、それを支えてきた中国の親世代の悲願と犠牲の大きさはいかほどなのだろうか。それを思うと、心が痛くなるほどだった。
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