グローバルな視点を欠く異次元緩和 水野温氏・元日本銀行審議委員に聞く(上)
――日本のインフレ率は1980年代後半のバブル期でも平均1.3%でした。米国並みの2%のインフレ率はありうるのでしょうか。
米国の潜在成長率は2.5%程度であり、2%のインフレ率というのはバランスが良い。しかし、日本は潜在成長率が0.5%程度の国であり、同じ2%のインフレ率を目標にするというのはかなり無理がある。成長戦略で潜在成長率が1%程度に上昇する可能性もあるが、仮に実現できたとしても、落ち着きの悪い組み合わせだ。
潜在成長率が0.5%の日本で2%のインフレ率目標は奇妙
0.5%の潜在成長率と2%のインフレ目標は奇妙な組み合わせで、スタグフレーション(不況下の物価高)の状態になる。生産性が上がらないのに、賃金を上げれば会社は存続できない。現時点では、持続的かつ安定的な賃金上昇は考えにくい。
先進国の中央銀行はインフレ率を抑えることは実現した経験は豊富にあるが、デフレから脱却させること、そして、プラスに転じたインフレ率を安定させた経験は乏しい。日本銀行は『インフレ期待』を引き上げて、フィリップスカーブを上方シフトさせると言っている。ただ、もはや「期待」でなく「気合」でやるのだとしか思えないが、実現できたとしても一時的で安定しない。
日本の消費者物価指数は、非製造業の需給判断の影響を受けやすい。現在マイナスである非製造業の名目賃金を引き上げていかなければ、持続的な物価上昇は実現しないからだ。また、2%のインフレ率を実現するのに、2%の名目賃金上昇率では足りない。今後2~3年の間に第1次ベビー・ブーマー世代が労働市場から退出する。総人口ベースで2%の名目賃金の上昇を実現するためには、就業人口ベースで3%~4%上がらなければならず、実現は困難だ。