グローバルな視点を欠く異次元緩和 水野温氏・元日本銀行審議委員に聞く(上)

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日銀の量的・質的金融緩和も為替レートや資産価格を通じて世界に影響を及ぼしている。閉鎖的な経済であれば円高是正や資産価格引上げ策は有効な政策対応だが、金融のグローバル化の中、円安進行は「近隣窮乏化策である」、株価急騰は「世界的な資産バブルを招くリスクがある」という諸外国からの批判に直面する。

白川方明前総裁は、中央銀行が為替について言及すべきではないとの考え方を貫いた。その姿勢は、円高是正を主張する人々からは強く批判された。だが、リーマンショック後に金融システムと決済システムの安定を維持できた点、「通貨切り下げ競争」に日本が警鐘を鳴らした点は、評価されるべきであろう。

円安だけが進めば海外からの批判が高まる

国際社会では、円安進行の初期段階では、「日本の金融緩和はデフレ克服のために内需刺激策としてやっていることだ」という論法が通っていた。しかし、4月のG20(20か国財務大臣・中央銀行総裁会議)、5月のG7(7か国財務大臣・中央銀行総裁会議)と通過するうちに、日本の大胆な金融緩和に対して批判が強くなってきた。

他国の経済状況に余裕がなくなっているからで、韓国のように、相対的な自国通貨高で苦しくなってきている国もある。また、日本の金融緩和が先進国の長期金利を乱高下させたり、実体経済と乖離した大幅な株価上昇をもたらしたりする動きが目立ってきた。

バーナンキFRB(米国連邦準備制度理事会)議長もQE3(月850億ドルの証券購入プログラム)政策の出口について議論しているのに、株価が上昇していることについて、懸念を表明し始めている。日本の金融緩和策によって、米国が金融緩和をやめた場合の調整コストが少なくて済むという見方がある一方で、資産価格上昇の山を高くしてしまい、量的緩和政策からの出口がより難しくなるという見方もある。

G20の声明文には「日本は信頼に足る中期財政計画を策定すべき」と書き込まれており、国際公約になっている。構造改革による内需の拡大や財政の健全化が進まず、円安だけが進めば、海外からの批判が高まる。

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