グローバルな視点を欠く異次元緩和 水野温氏・元日本銀行審議委員に聞く(上)
日銀はしぶしぶ緩和に追い込まれたという印象が強いが、そうでもない側面もある。以前から、日銀内には、財政ファイナンス(マネタイゼーション)という批判を受けるような思い切ったリフレ政策に踏み切れば、第1に政府に財政再建や構造改革を迫る、第2に中小金融機関に大規模な再編を迫る、ことができるのではないか、という考え方があった。安倍政権の誕生、黒田総裁の就任がなくとも、日銀が大胆な金融緩和に踏み切る可能性はあった。実際、白川前総裁の最後の半年は、そうとう大胆な金融緩和に踏み切っていた。
ただ、政府が痛みを伴う構造改革を先送りし、日銀の危機意識を共有してもらえないリスクがある。黒田総裁には、高まった政治的発言力を活用して、政府に構造改革・規制改革・成長戦略を強く迫ってもらいたい。
日銀は量的・質的金融緩和の波及経路として、3つの経路を考えている。まず、「ポートフォリオ・リバランス効果」であり、日銀が長期国債を大量に買い入れる結果として、これまで長期国債の運用を行なっていた投資家が株式や外債等のリスク資産へ運用をシフトすることを期待するものだ。次に、「資産価格のリスクプレミアムに働きかける効果」、そして「市場や経済主体の期待を抜本的に転換する効果」を考えている。
ただ、海外からの反発に配慮して強調していないが、「為替レートを通じた波及経路」、すなわち、円高是正に続き、緩やかな円安進行も期待しているはずだ。「展望レポート」に示したような15年度に前年度比1.9%の消費者物価(除く生鮮食品)上昇率は、円安が定着しないと実現できない。
アベノミクスはグローバリゼーションに対応していない
安倍政権同様、新体制の日銀も、グローバルな視点に欠けているのではないか。各国の政府、中央銀行は、自国経済の安定に責任を持つことは当然であるが、金融のグローバル化の中、自らの政策が他国に波及することや、自国に跳ね返ってくるというフィードバックの作用に配慮せざるを得なくなっている。