グローバルな視点を欠く異次元緩和 水野温氏・元日本銀行審議委員に聞く(上)
日本にとっても、円安のメリットがかつてほど大きくはなくなっている点に注意が必要だ。企業は先にグローバリゼーションへの対応を進めてきており、決済通貨を円に変えたり、生産拠点を海外に移したりしている。円安が進みすぎるとコスト・プッシュ型インフレの恐れがある。また、日本の金融緩和が海外で資産バブルを醸成すれば、それが崩壊した場合にブーメランのように日本に跳ね返ってくる。
インフレ期待が高い米英でも量的緩和の効果は限定的
――量的緩和には効果はあるのでしょうか。
日銀は2001年3月から06年3月まで量的緩和を実施した。その総括は、第1に金融システム安定には寄与したが実体経済に与える影響は限定的であったし、第2にポートフォリオ・リバランス効果も期待外れに終わった、というものだ。ベースマネーが増えても、マネーサプライは増えなかった。ましてや名目GDPは上昇しなかった。
これはインフレ期待が高い米英でも同様だ。米国でも、株価は上がったけれども、実体経済が強いかというと、FRBも「雇用の改善は苛立つほど緩慢である」と認めている。
米国はインフレ期待が高いから資産効果がある。だが、日本では賃金が上がらなければ家計部門のインフレ期待は高まらない。わが国の家計部門では株式保有者は限定的だ。今起きていることは、資産効果ではなく、正確に言えば、単なるマインド効果。来年買おうと思っていた自動車をマインドがよくなったから買うというだけならば、需要の先食い。消費税前の駆け込みと合わせてダブルで先食いしている可能性もある。