「評伝のおもしろさ」では、トランプが圧勝だ 「買うな!退屈な本だ!」(本人弁)

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トランプによる最大の戦略は、大統領選における既存のルールを徹底的に無視するということから始まった。全国各地で遊説を始めると原稿を読むということを完全に放棄し、用意された原稿はアウトライン程度にしか考えなかったという。だから即興の発言で繰り広げられるのは、覚えやすいセリフ、誤ったファクトとナルシストじみた虚勢のみ。

悪名は無名に勝る

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それでも悪名は無名に勝り、建前を凌駕する。TVの視聴率を稼ぐときと同じようなスキャンダラスな手法で、トランプは全国のニュースを席巻する。それゆえに、5人の熱心な有給スタッフを中核にするメンバーとしては考えられないほどの露出を実現させることができたのだ。

さらに「左と右」というイデオロギーや、「民主党と共和党」という政治概念が変わりゆく時代も、彼に加勢した。だがそれは決して偶然起こったことではなく、国民の多くが不満に思っていることを嗅ぎつける特有の勘によるものであったという。

イデオロギーを嫌悪し、「思想」より「気分」を重視し、特定の人々や集団を侮辱する。それでも「普通のアメリカン人」的な言葉はよく届き、トランプは選挙戦についての予想を、ほぼすべて覆した。政治の門外漢というトランプの立場が、有権者が既存の政治にどれだけ不満をいだいているかをはっきり示し、爆発的な人気を呼んだのである。

古臭く、悪趣味なようにも思える彼の戦略の革新性とは、「誰にもマネの出来ない」という点に尽きるだろう。人格と戦略が完全に一体化しているために、模倣もアウトソースも難しい。単なる炎上マーケティングとも一味違う。ブレまくるということで常に一貫性をもち、予測不可なことだけが確実に予測でき、ネガティブな反応もなぜかパワーの源に変わってしまう。こんな敵役が、かつて存在しただろうか。

ドナルド・トランプ、彼には新聞報道やネットのニュース記事ではなく、評伝としてのノンフィクションが、とてつもなくよく似合う。そしていつか書かれるであろう最終章には、大統領への夢が破れてもなお、強がった発言で世間を賑わす彼の姿が記されていて欲しいと、心の底から思っている。

内藤 順 HONZ編集長

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ないとう じゅん / Jun Naito

HONZ編集長。1975年2月4日生まれ、茨城県水戸市出身。早稲田大学理工学部数理科学科卒業。広告会社・営業職勤務。好きなジャンルは、サイエンスもの、スポーツもの、変なもの。好きな本屋は、丸善(丸の内)、東京堂書店(神田)。はまるツボは、対立する二つの概念のせめぎ合い、常識の問い直し、描かれる対象と視点に掛け算のあるもの。

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