「評伝のおもしろさ」では、トランプが圧勝だ 「買うな!退屈な本だ!」(本人弁)
20人以上にも及ぶ腕利きの精鋭軍団達によって丸裸にされていくトランプの過去を知れば知るほど、これまでの、そしてこれから起こるであろうトランプのスキャンダルも、当然の帰結として受け止められるようになるだろう。
それを裏付けるように、冒頭から知られざるエピソードが次々に明かされていく。マンションに黒人を入居させなかったとして、人種差別罪で訴追されたこと。マライア・キャリーやダイアナ妃と「やりたい」と公言して憚らなかったこと。二度離婚し、伴侶とは「秘密保持契約」を交わしていたこと。三度目の結婚式にはヒラリーを招待し、最前列で出席していたこと。
むろん、「卑猥な会話」騒動のきっかけになった番組「アプレンティス」についての記述も抜かりはない。この番組を通じて、有能で自信に満ちたホスト、権威を行使して即座に決断するボス、というトランプのキャラクターを磨き上げ、それをアメリカ中の人に深く浸透させた。それが、政治家への重要な架け橋になったというから、世の中分からない。
トランプの人格を形成するに至った要因とは?
ならば気になるのは、このようなトランプの人格を形成するに至った直接的な要因が何なのかということだ。彼の逆境を逆境とも思わない、ポジティブな思考様式は、不動産ビジネスを営んでいた父フレッドからの影響が大きいようである。
一方、攻撃的な性格は、かつて政府内で赤狩りを指導していた弁護士ロイ・コーンに由来する。人種差別訴訟の際には、彼らはすぐに1億ドルの賠償を求めて政府を反訴するという奇策に出たわけだが、その時に「くたばれ」と言い放ったコーンの気概をトランプはえらく気に入ったそうだ。その時に「攻撃されたら、容赦なくやり返す」ことを、実地で学んだのだ。
しかしそれでも、はじめは泡沫候補と思われていたトランプが、大統領選の選挙戦術において誰よりも確実に成果を出してきたことは、まぎれもない事実なのである。要は、ただのジャイアンではなく、戦略的なジャイアンなのだ。その戦略性に関する記述も、知れば知るほど興味深い。
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